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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag1―過去と未来と現在と―(5)

「何だよその可哀想なものを見る様な目は!?」


「えっ? ああ、可哀想なものだなって」


「何だよぉ……さっきからずっと私の事を馬鹿にしてぇ……! そもそも司はもっと人に優しさを持って接するべきだっ! そんなだから友達居ないんだよ!」


「いや、優しさを持って接してるし、友達も人並みには居るから」


 ただ単につむじの友達が多いだけだと思う。学校の皆が友達、みたいなやつだし。


「そんな事無いね! 前も私が授業の前に教科書が見つから無くて困っていたのにどっか行ったし」


「その授業は課題だったからあまり探す必要は無かっただろ。それに課題のプリント持って戻って来たじゃん」


「……中学生の時も私が図書委員の仕事で大量の本を整理出来ずに困ってて、そこに司が居たのにも関わらず、嘲笑うかのように笑顔で本を手に取ってたじゃないか!」


「それは本棚の高い所にある本が取れなくて困ってる人が居たから取ってあげてたんだよ」


「でも私も困ってたし!」


「俺はそもそも図書委員じゃ無かっただろ……ってか、その後は仕事を全部俺に押し付けてただろ!」


「そ、そうだっけ……」


「そうだよ」


 いつも『司暇ー?』から始まって返事をする間も無く、『じゃっ! よろしく!』って言って押し付けられていた事を思い出す。


「ぐっ、うぐぐぐぐぐぅ……」


「何でそんなにムキになってんだよ……。もう、わかったからそんなに睨むなって」


「だから何でそうや……って、えっ? それって……!?」


 昼御飯を作るというだけなのに、つむじは破顔一笑。少し大袈裟では無いだろうか? そんな反応を見せられるとあまり邪険に扱えないというか……あれ? 何だかんだつむじに甘い……?


「で、献立は何だ?」


「残念ながら家にあるものだけでするから豪華なもんは作れ無いぞ」


「それじゃあ、買いに行ってくる!」


 それなら弁当でも買ってこいと言うのは流石に無粋だろうか。……とはいえ、ここまで嬉々としている所へ横槍は入れにくいし、お人好しなつむじの事だ、不器用ながらもこうなる事を案外計算していたりするのかもしれない。……完全に力業ではあったが。


 そうして、その後も俺達はいつも通り取り立てるような事もないまま過ごした。夕食後、つむじは『デザートはー?』等とほざいていたが、遅い時間に帰らせる訳にはいかないのでとっとと帰らせた。


 もちろん家まで送ったが、俺より遥かに身のこなしが良いつむじを送って帰る必要があるのかどうかは謎である。


 そして帰り道。俺は日と同じ丘まで来ていた。


「うぅっ……やっぱ寒い……」


 相変わらず寒気は引いてくれないため昨日と同じく非常に寒い……いや、昨日よりも寒いかもしれない。


 とはいえ、手を休める訳にいかない。どんな些細な手がかりでも見落とさないように注意して辺りを散策する。


 けれども。


 具体的にどうすれば良いかなんてわかるわけも無く、冷たい風に揺れる雑草見ても、変わらない。空を見て。寂しそうに広がる風景を眺めて。


 丘の天辺に目をやる。


 青々とした木が一本寂しそうに生えているだけ。


「なぁ……繁じいちゃんは何しにここへ来たんだ……?」


 どんな些細事でも良い。とにかく何か欲しくて、今はもう亡くなった人を重ねて問い掛けてみる。


 しかし返事は帰ってくる筈も無く。言葉はただ闇夜に吸い込まれていくだけだった。


 六十年程前、一体繁じいちゃんは何を思ってここへ来て、冒険したのだろうか?


 何かがあった筈だから、ここへ来た。だけどわからない。俺が見落としてしまっているだけだろうか。


 そんな事を考えながら寂しそうに一本だけ立っている木に近づく。


 近づいてみると案外木は大きくて、夏場の日中ならゆっくり昼寝が出来そうなくらい影が出来ている。


 幹に手を触れる。凹凸のある表面は酷く冷たかった。


「……やっぱり、何も無いよな」


 木に背中を預けて、木の葉の天井の隙間から微かに光る星を眺めてみると、ふと、視界の端の方に違和感を覚えた。


「雪……?」


 温暖な気候のこの町にしては珍しい。……まあ、今日は一段と寒いから、不思議じゃないか。


 中々に大粒な白い塊が、量を伴ってふわふわと降りてくる。


 手に取って確かめてみようとするのは、温暖な気候の地域に住む人間の性だと思う。


 けれど、その瞬間、俺は違和感の本当の正体に気付いた。


 ここは木の下だ……雪が降っても枝や葉が邪魔で、大量の雪がここまで届く筈が無い。


「えっ……?」


 だが、そう洩らした頃にはもう遅く、既に俺の視界は白に埋め尽くされてしまっていた。

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