Flag6―心と約束と小さな樹氷―(5)
「今日から魔法教えてくれるんだろ?」
するとカーミリアさんはあからさまに嫌な顔をする。
「な、なんでアンタなんかに魔法を教えなきゃいけないのよ!?」
……流石女王様、相も変わらずブレが無い。
しかしそれでも俺はめげない。
「コーチと賭けをしただろ?」
それにさっき俺が『魔法の練習しようぜ』って言った時のあの返事は何だったんだ。
「アンタあんな最低な賭けを有効だっていうの?」
「その賭けで俺を下僕にしようとしていたのは誰だ」
もうやめましょうカーミリアさん。これ以上したら貴女はもはや暴君です。
「うっ……」
流石にこれは否定出来なかったのかカーミリアさんは口ごもった。
「それに挑発されたとは言え最終的にはカーミリアさんも賭けに乗っただろ?」
「う、うるさいわね! 下僕は下僕らしくしておけば良いのよ!」
「おい待て、俺がいつ下僕になった」
「アンタが存在し始めた時からよ!」
「初めて知ったよそんなの!」
むしろ知りたくもなかった!
そんな時、俺の前に一人の救世主が現れた。
「アラアラやっぱり手こずっている様ねツカサちゃん」
その救世主とは最早このクラスの首領と言っても良いような風貌とリーダーシップを兼ね備えたオカマだった。
「わかってたんだったらもっと早く助けに来てくれよケトル」
「ウフッ! 良いじゃないのよ、死ぬ訳じゃ無いんだし」
「いや、この人の相手してたらいつか死ぬから!」
昨日からカーミリアさんと話しをする度攻撃を食らっているのにも関わらずピンピンしているコーチは凄いと思う。
「まあまあ、今はワタシが来たんだから良いじゃないの」
「まあ、それもそうだけど何とか出来るのか?」
するとケトルはグッと親指を立てていった。
「ウフッ! ワタシを誰だと思ってるの? だから先に皆で第三演習場へ向かいなさい」
何やらケトルは自信満々だったので俺はそれを信じ、先にクラスの皆と一緒に第三演習場まで向かった。
「なあ、レディ。何でカーミリアさんは模擬戦で混合魔法をほとんど使わないんだ?」
「それは多分、手加減してたりするんじゃないかな?」
「じゃあキレたりしたら見境が無くなるのか?」
「そうみたいだね……」
「この生活を続けていたらその内クラス全員が死にそうな気がする」
「アハハ……否定はしない……」
そんな他愛も無い会話を繰り広げていると説得が上手くいったのか、笑顔のケトルと対照的に不機嫌な表情をしたカーミリアさんがやって来た。
「お待たせしたわね。ほら、ラナちゃんも!」
「何でアタシがそんな事言わなきゃいけないのよ」
「ラナちゃん? ワタシは別に良いのよ?」
不敵な笑みを浮かべたケトルがそう言うとカーミリアさんの表情は一瞬にして凍りついてしまった。
「お、遅れて……わ、わ、悪かったわね……」
何とか声を絞り出したカーミリアさん、軽く挙動不審になってしまっている。ケトルは一体何をしたのだろうか……?
すると満足したのかケトルは俺達の方へ向いて全員に聞こえる様に呼び掛けた。
「まあ、そう言う訳だからさっさと練習をしましょうか。魔法の事でわからない事があったらワタシやラナちゃんが聞くわ」
するとクラスの皆も納得したのか思い思いに演習場内に散らばっていった。
「さて、こっちも始めようぜ!」
コーチはそう言いいながら俺をカーミリアさんの所へと引っ張って行く。
その時隣に居たレディの顔に赤いものが見えた様な気がしたが特に気にしない事にした。
そうしてカーミリアさんの所へと着いた俺達は早速魔法について助言を求める。
「てな訳で混合魔法を教えてくれ」
俺がそう言うとカーミリアさんは何故か一瞬間を置き、呆れた顔をした。
「はあ……? アンタ馬鹿なの?」
「……何で?」
「契約武器の召喚でわざわざ詞を詠唱してる様な奴に混合魔法なんか教える訳無いじゃない」
「それってあんまり答えになって無い様な気がする……」
「教えてるのはアタシなんだからアタシのやり方にケチつけるんだったら教えないわよ」
これは出された課題を順番に合格しない限り次へ進ませないと言う事だろうか?
「じゃあさっさと詠唱無しで使える様になりなさい」
するとカーミリアさんはそう言い残した後、どこかへ行ってしまった。
何だろうこれ……放置プレイ?
俺がそんな遣る瀬無さ感じていると、ふと肩を叩かれたので振り向くとそこにはコーチが居た。
「なあツカサ、カーミリアさんはどうしたんだ?」
「今さっきどっか行ったけど?」
「マジで? 俺も教えて貰おうと思ってたのに……」
コーチはそう言うと肩を落としてしまった。
「ところでコーチ、さっきまでどこ行ってたんだ?」
本当は肩を叩かれるまでコーチが居ない事に俺は気付かなかったが、それを言ってしまうと流石に可哀想なので黙っておこう。
「いやさ、俺もカーミリアさんの話を聞こうと思ってたんだが途中でちょっとケトルに呼ばれてな」
「何話してたんだ?」
「ああ、それはその内わかると思うぞ」
誤魔化された事が少し腑に落ちなかったが今は気にしない事にして俺はカーミリアさんに言われた事をコーチにも伝えて練習を開始した。
そして練習を開始して二時間位が経った頃、カーミリアさんが戻って来た。
「何で倒れてんのアンタ達……?」
現在の俺とコーチは二時間を通して無駄なテンションでどちらが早く詠唱無しで契約武器を召喚出来る様になるかといった競争を交えながら練習をした結果、契約武器の召喚に詠唱は必要無くなったが魔法の使い過ぎ等による疲労により倒れていた。
ちなみに競争は当然の結果ではあるが俺の負けだった。 てかコーチは詠唱なしで使えていた。つまりただの俺の一人相撲だったのである。どうやらコーチと初めて模擬戦をした時から合わせてくれていたらしい。付き合ってくれてるのは有り難いけど、倒れるまで種明かしをしないのは馬鹿だと思う。




