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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag1―過去と未来と現在と―(4)

 相変わらず驚異的な速度の掌返しである。


「このトーストはサクサクしてて焼き加減最高だな!」


「そりゃトースターで時間を設定するだけだしな」


「このココアは甘くて温かくて凄いなぁ」


「牛乳温めて粉入れるだけだしな」


「この目玉焼きは何とも言えない焼き加減で良いなぁ! 白身ははポロポロで黄身はパッサパサ! まさに理想の朝食だよ!」


「お前さっきから馬鹿にしてねぇか!? それに目玉焼きはお前に合わせて半熟にしてるだろ!?」


「ずっと私の事を馬鹿にしてるからお互い様だもんねー」


「はぁ……わかったよ……」


 どちらかと言うと馬鹿にしているのではなく、馬鹿を指摘していたのだが、多少ともつむじを弄っていたのもまた事実。つむじの言い分を甘んじて受け入れよう。


「ところで、いつまで居座るつもりなんだ?」


「ふぁふぁんふぁふぁ!」


「呑んでからしゃべれよ……」


「……ッ!? んー! んー!!」


 急いで呑み込もうとしたのだろう、どうやら食べ物を喉に詰まらしたらしい。 


「休日くらい落ち着いて食えよ……」


 流石にこんな所で窒息死されても困るので急いでコップに水を注いで手渡すと、つむじは両手でふんだくるようにコップを掴んで一気に中の水を飲み干した。


「んぐっんぐっ……ぷはぁー……ぜぇーはぁーぜぇーはぁー……ごめん」


「で、いつまで居てるつもりだ?」


「わかんない」


「はあ?」


 こっちからしたらそれこそ意味がわからない。


「いやー……今日からお父さん出張なもので……」


「ああねぇ……」


 つむじの親父さんとお袋さんはここら辺では有名なおしどり夫婦で、親父さんが出張の時はお袋さんも一緒に着いて行くのが恒例になっている。


 しかしそれはつまり……。


「俺がお前の飯を作れと?」


「さっすが話をわかっていらっしゃる」


 面倒な事ではあるのだが、俺も並榎家にお世話になる事も多いのでしょうがない。


 それに、面倒事とは言え、家事は今まで來依菜と交代でしていたのであまり苦では無いので良いだろう。


 しかし、それはそれである。


「じゃあ今日は晩飯食うまで家にいるつもりか?」


 ずっと居座られると出来ることも限られて来る。別に何をしようと予定を立てている訳じゃないけれど……。


「そうなるんじゃないかねー……? ふわぁっ……」


 そんな俺の焦りにに似た何かは知ってか知らずか、食事を終えたつむじは再び寝そべると、テレビの方へ向いて欠伸を一つ。オッサンか。


「じゃあ昼飯は自分でどうにかしろよ」


「なん……だと……?」


「いや、当たり前だろ?」


「なんで……!?」


「晩飯も作るんだから、それ位どうにかしろよ……」


「そんなの……私に死ねと!?」


「自分で作るか買って来るかすれば良いだろ?」


「仕事を放棄したらダメだぞ!」


「俺はお前の家政婦になった覚えは無い」


「司は男なんだから家政婦になんかなれないに決まってんだろ?」


 真顔になって鼻で笑うつむじ。うっわっ……腹立つ。


「あっそ……じゃあ自分で買いに行けよ」


「司はこんな可憐な女の子を痛めつけるの?」


 何処で覚えたのか、つむじは上目遣いで瞳をうるうるさせて俺を見てくるが、俺を誰と心得る。幼馴染みである。今更そんな事で揺るぐ俺ではない。


「身体能力が男並みかそれ以上の奴を可憐とは思えないんだけど」


 そもそも、つむじの身体能力は異常な域まで達している。下手をしないでも、運動神経の悪くはない筈の俺が余裕で負ける程である。


「そんなっ……酷いっ……」


 悲劇のヒロイン風……っぽい口調で如何にもか弱さを出そうとしているがそんなことをするには十年は遅い。そしていつまで続ける気なのだろうか。


「知るか、お前に慈悲なんか要らないだろ」


 少しキツイ言い方をしたかもしれないがコイツに慈悲は無用だ。下手すりゃ冷蔵庫が空になる。


「なんで……!? なんでわかってくれないの!?」


「何をわかれと?」


「鬼ー! 悪魔ー!」


「俺からしたら鬼や悪魔よりも家の食料をすっからかんにするお前の方が恐い」


「ぶーぶー!」


 口調が戻った。どうやら気が済んだらしい。


「そういう事だから、何とかしろよ」


「ほぅ……ならこの家のキッチンを借りても良いのか?」


「あー……そうだったな……」


 失念していた。コイツに料理をさせてはいけない。今でも思い出すと疲れるが、俺も以前つむじが料理を作ると言った時に遭遇した事がある。


 やる気だけは良かったのだがこれが酷かった。


 まず手始めに材料を切ろうとするも大きく振りかざした包丁はまな板ごと叩き割ってしまった。怪我は無かっただけ良かったのだが、今でもその傷跡はキッチンに残っている。


 しかしそれだけではない。四苦八苦しながらも何とか材料を切り(叩き割るととも言う)終え、調理に入り、後はレシピ通りに作れば良いので、俺も安心して目を離した隙である、材料はあっと言う間に炭へと進化してしまっていた。


 流石につむじであっても堪えたのだろう、落ち込んだつむじが元気になるだけの自信は取り戻させようと、もはや料理では無い洗い物をさせてみたが、それも失敗でゴミが大量に増えた。


 結果として一周回ってつむじは開き直って良かったと言えば良かったのだが、あの酷い有り様のキッチンは今でも思い出すだけで頭痛が起こりそうになる。


「どうだ? 従う気にはなったか?」


 そしてこっちの今の有り様を見ると、洗い物もさせない方が良かったのではないかと今でも思う。


「知るか、じゃあ俺が許可しなければ良いだけだ」


「つまり私の飯を作ってくれるんだな!」


「流石だつむじ、めでたい頭をしているな」


「褒めるな、くすぐったい」


「いやいや、凄いよ、つむじ。凄い馬鹿だ」


「褒めてないじゃん!? 騙したな!?」


「騙してねぇよ……」


「そっ、そもそも司は人にバカと言えるのか?」


「……お前の学校での成績は?」


「た、体育はクラスで一番だ……」


「それ以外は?」


「…………」


「無言か……なら質問を変えるぞ。試験の時にいつも勉強を教えているのは誰だ?」


「……つ……す……」


「聞こえない。はっきり言ってくれ」


「司……です……」


「それならもう結果は見えてるだろ?」


「ぐぅぅ……」


 つむじは少し涙目になりながら睨んでくる。……そんな悔しがる事だろうか?


「まあ、そう言う事だから諦めろ」


「じゃ、じゃあ! せめてもの情けで私の昼飯を用意してくれ!」


「……悪いけど日本語で頼む」


「私はいつだって日本語喋ってるぞ!」


「あーはいはい、俺の言い方が間違ってたよ。“まとも”な日本語で頼む」


「……えっ?」


 ……こいつはもう手遅れらしい。

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