Flag6―心と約束と小さな樹氷―(4)
「ええ、十年程前だけどね」
そう言った時のケトルは一瞬だけ悲しい顔をした様な気がした。
「へー……ん? 十年程前って事は」
「ええそうよワタシとラナちゃんは幼馴染み同士よ」
何だその最凶の幼馴染み、キャラ濃すぎだろ。
「それは意外だな……というかカーミリアさん友達居たんだな」
「そんな事言ったらアナタは友達じゃないの?」
「俺らが友達だって言ったとしてもあの人は違うって否定するだろ?」
「フフッ……ラナちゃんは意地っ張りのツンデレさんなのよ」
「いや、あの人にデレは無いだろ」
「ホントは照れ屋で奥手なのよ、だから純白なのよ!」
何だろう、この純白の異様な説得力は?
「でも本当にデレがあるなら見てみたいね」
「あら、ラナちゃんをオトすの?」
「いや、そう言う意味じゃねぇよ」
「ラナちゃんをオトす為の条件は先にワタシをオトす事よ」
「だから俺はそう言う意味で言って無い! てか条件の方が難易度高い!」
「大丈夫よ、ツカサちゃんなら行けるわ」
そう言ってウィンクをするケトル。
「戦慄が走るのでやめてください」
「ウフッ! 冗談よ」
そう言いながらもケトルは再びウィンクした。マジで笑えない。
「とりあえずワタシは前のを止めに行くわね」
ケトルに促されて前を見ると変態VS女王の図が出来上がっていた。
「ああ、出来たら何かを破壊する前に止めてくれ」
前に居るのは学院一位にクラス三位そして魔法戦闘の実技を教えている教師、これは下手をしなくても他のクラスメイトや教室も巻き込む可能性が高い。
「フフッ! 任せなさい」
ケトルはそう言うと手をパンパン、と音を鳴らし叩きなが三人の元まで歩いて行った。
「ほらほら、アナタ達は今そんな事するためにここに居るんじゃ無いでしょ? ほら、皆もよ」
ケトルがそう呼び掛けるとコーチとカーミリアさんを含めたクラスメイト全員が素直に元の席へと戻って行った。凄いリーダーシップ……ケトルさんぱねぇ。
「ネアン先生、アナタも何か皆に言おうと思ってた事無かったの?」
そしてケトルが続けてそう言うとネアン先生は何かを思い出した様な表情をした後、少し教室を見渡しながら言った。
「あー……さっきも言ったけどお前ら前代未聞のクラス全員生徒指導行きじゃん? だけど生徒指導室に一クラスが丸々入る様なスペースは無いから生徒指導の呼び出し無いってさ」
この言葉に俺達は歓喜した。しかしそうすると馬鹿をした者勝ちになってしまうのではないだろうか?
そんな時、俺と同じ様な事を思ったのかルーナがネアン先生に質問した。
「あの、それでは何か代わりの処置があるんですか?」
その言葉により一瞬で静まり返る教室。コーチに至っては目を大きく見開き、口は顎が外れるのでは無いかと思うほど開けており、絶望を見たような表情をしている。顔芸乙。
するとネアン先生は満面の笑みを浮かべて言った。
「お前ら全員魔闘祭を死ぬ気で取り組まなきゃ留年って位まで成績下げられてるから」
「……は?」
いくら覚悟していたとは言え、この言葉には俺も耳を疑った。
「本気で言ってんのか?」
「大マジだとも、問題児ナンバースリー外道のツカサ=ホーリーツリー君あと腹黒」
そう言った時も変態教師は満面の笑みを絶やさな無かった。コイツ最低だろ……。
そんな時、何故か隣の席に座っていたカーミリアさんに小さな声で話し掛けられた。
「ちょっとアンタ、先生に何したのよ?」
「何って?」
「先生がアンタを外道呼ばわりする理由よ」
「えっ? ああそれか、別に俺はネアン先生が真面目に授業するようにおど……お願いしただけだぞ?」
ちなみにお願いの時に『ネアン先生は学園長の事を好きなんですよね?』と無邪気に質問したところ、笑顔で引き受けてくれた。
「でもそれがどうしたんだ?」
「アンタちょっとネアン先生にお願いしてきなさいよ」
「えっ……? ああ! なるほど、その手があったか!」
ならば早速行動しようと思い、俺は立ち上がるために机に手を突いたがその時、その行動はネアン先生の一言によって打ち砕かれてしまった。
「言っておくがこれはルイスが決めた事だ。文句を言うならアイツに言ってくれ」
「……なあカーミリアさん」
「何?」
「魔法の練習しようぜ」
「……そうね」
俺達にあの自由奔放な学園長を止めれる気がしない。そもそも仕事をサボって学院から逃走している可能性も有り得る。それを踏まえると魔闘祭に向けて練習する方がよっぽど現実的だ。
するとせめてもの哀れみか、ネアン先生は普段では有り得ない様な事を口走った。
「まあ第三演習場は今から予選まで開放しといてやるから精々頑張れよ」
「ツンデレ! ツンデレなんだねネアン先生!」
そう叫んだのは既に鼻血を流しているレディ。頼む……たまには自重してくれ。
「なあなあツカサ!」
「どうしたコーチ?」
「今から開けるって事はさ! 今日はもう授業ねぇんじゃねえのか!?」
「あー……そうみたいだな」
俺が教室の前方に目を遣るとそこにネアン先生の姿は既に無かった。あの人は優しさと見せかけて、ただ単にサボりたかっただけなのだろう。
しかしまあ、貴重な時間が増えた事には変わり無いので今回は見過ごす事にした。
「なあ、カーミリアさ……ん?」
俺は隣で何故か微笑んでいたカーミリアさんに話し掛けた。
「な、なによ?」
すると何故か表情は一変して不機嫌になってしまう。その反応に対して若干ショックを覚えながらも俺はめげずに話しを続ける。




