Flag6―心と約束と小さな樹氷―(3)
カーミリアさん……何故俺を睨む。
「余所見をしていて良いのか?」
太々しい態度でコーチは言う。顔は良いのにどうしてここまで腹立つ顔が出来るのか。
「では、話を戻そうか。昨日見たのは純白のパンツ……そこから推測するにカーミリアさん、あなたは純白のパンツ以外は持っていない筈だ!」
「なっ……!」
顔を更に真っ赤にして絶句するカーミリアさん……なるほど、純白だけしか無いのか……。
「予想外だね」
「ああ、そうだな……」
「ボクとしては真逆の黒もありえると思ったんだけどやっぱりツンデレさんだったねー」
「ああ、そうだ……ん?」
俺の隣にはテヘッと笑っているレディが居た。
「……顔に出てた?」
「バッチリ!」
グッと指を立てるレディ。なんだろう……凄く死にたくなってきた。
「大丈夫だよツカサ君! 既にみんなもツカサ君がムッツリだって事知ってるから!」
「知りたくなかったそんな事実!」
「まあまあ、それよりもこれで魔法を教えて貰えるね」
「そう言えばこれは賭けだったな」
そう言った後、コーチ達の方へ目をやると「白だ! いや、純白だ!」等と叫んでいるクラスメイト達に胴上げされているコーチと顔を真っ赤にして立ち尽くすカーミリアさんが居た。
カーミリアさんの肩は少し震えている。
「あれ? 何これデジャブ?」
「アハハ……偶然だね、ボクもだよ」
レディと言葉を交わした時、いつの間にか昼休憩が終わっていた様でネアン先生が教室に入ってきた。
「うぃー……授業す……何だ何だ? 祭りか!? なら俺も混ぜてく……えっ?」
ノアブライズ・トロンベ
「〝原因不明の大竜巻〟」
「やっぱりぃぃ!」
そうして一年C組の教室は突如発生した雷雨を伴った大竜巻によって半壊した。
無論これによりクラスメイト全員の生徒指導が決定し、こんな時期に問題クラスとも呼ばれる様になり、ネアン先生の減給も決定したのは言うまでもないだろう。
「おいてめぇら! 何してくれてんだ!」
ネアン先生の怒号が響く。
俺達は壊滅してしまった一年C組の教室の変わりに空いていた教室で授業を再開することになった。しかしまともな授業等、到底出来る筈も無い。
「おいそこの馬鹿四人組!」
馬鹿四人組とは恐らく俺、コーチ、レディ、カーミリアさんを指すのだろう。
「てめぇらが馬鹿な事始めたせいで俺の給料が飛んでいっただろうが! ……っておいコラ聞いてんのかぁ!?」
ネアン先生はそう言って喚いているがウチのクラスの連中が耳を傾ける筈も無く、ひたすら駄弁っている。
「いやいやだからボクが伝えたいのは背徳感では無く薔薇の様な美しさを表しているって事なんだよ。芸術性も見出だせるとは思わないかな?」
「あ、アンタさっきから何言ってるの!? アタシにアンタの趣味押し付けないでよ!」
「そうだぞレディちゃん? あくまでもカーミリアさんは女王ブラックだからジャンルが……っ痛い! 踵で脛はやめて! って言うかこれはツカサの仕事じゃなかっあだだだ! だからやめっ! そしてそれはもっと駄目だぁ! 足がぁ! 足がおかしな方向に逝ちゃうぅぅのぉぉおおお!」
はぁ……こんな状況でもこんな会話を繰り広げられるお前達を尊敬するよ……。
「司さん?」
「なんだルーナ?」
「みんな楽しそうですね」
「本当にそう思うか?」
一名は鼻血を垂らして一名は足を押さえて悶え苦しんでて更に一名は無視されすぎて今にも暴れそうな位キレてるこの状況が?
「はい、皆とっても楽しそうです」
ならば君は中々のサディストだと俺は思う。
「でもまあ、最近のウチのクラスの団結力は凄いと思うな」
主に変態の。
とは言え、俺がここへ来たのも最近の事なので、これが本来の姿なのかもしれないが。
そんな風にルーナと話していた時、ついに奴は本気でキレた。
「だからてめぇら聞いてんのかぁぁ!! てめぇらが好き勝手やってるせいでこちとら仕事が山積みになってんだよぉぉ!!」
「えぇー……ちょっと待ってよ先生、ボク達は先生がボーナス貰える様に頑張ろうとしてたんだよ?」
先生の発言に対してレディが反論したが、強ち間違っては無いような気もするけど、実際はコーチが賭けと言う名の欲望を解放しただけである。
クラスごと悪ノリしたのは先生には申し訳無いが、そのお陰で魔法を教えて貰えるのだから今回は気にしないでおこう。
「ボーナスの想定を入れても既にある被害の方がデケェんだよ!」
先生がそう叫ぶと、何を思ったのかコーチがおもむろに立ち上がりゆっくりと先生の前まで移動していった。
「まあ落ち着けよ先生、先生は気にならないか?」
「落ち着け無い状況にしたのはてめぇらだろうが! そもそも何の話だ!」
するとコーチは待ってましたとばかりにいやらしく笑う。
「カーミリアさんの穿いているパンツの話だ」
「ち、ちょっと何言ってんのよアンタは!?」
「どうだ先生?」
「ふむ……詳しく聞かせて貰うぞ」
何だこのクラス。先生までそっち側だったってのか。切り替え早ぇなおい。
「ま、待ちなさいよ変態!」
顔を赤くして必死にとめようとするカーミリアさん。しかしこの際の変態はどちらの変態を指すのだろうか。
「いいか先生? 純白しか無いんだ……」
「何……だと……?」
「や、やめなさいよアンタ達! そもそも教師がそんなことしてて良いと思ってんの!?」
なんかこう見てると一人だけ浮いていたカーミリアさんが嘘の様だ。前までは授業はおろか学院内でもほとんど話さなかったのに。
「ラナちゃん楽しそうね」
教室の前の方に居る三人を眺めていた俺に話しかけて来たのは我がクラスが誇る最強のオカマ、ケトルだ。
「ラナちゃんって誰だ?」
「プラナスの事よ」
「初めて聞いた呼び名だな」
「ええ、再び呼び出したのは昨日だったから」
「再びって事は昔もそう呼んでいたのか?」




