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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag1―過去と未来と現在と―(3)

 六年……あの事件からもうそれだけの時間が経過した。


 当時は両親が死んだ事で色々あったが、今こうしていられるのは、繁じいちゃんやつむじ達のおかげだ。


 前髪の隙間から今は見飽きた空を見上げると溜め息が溢れた。


 柊來依菜ひいらぎくいな――一つ歳の離れたの妹は、空色で流れる様に綺麗なセミロングの髪をしていた。


 小学生に間違えられる事もある程、幼い容姿ではあったが、しっかり者で、自慢の妹だった。


 たった一人の家族だった。だから、俺は例えどんなに小さな希望であってもすがる以外の選択肢はない。諦める訳にはいかない。そうすることを俺自身が許せない。


 繁じいちゃんの昔話、まるで夢物語。本当に作り物語だったのかもしれない。


 神隠しで居なくなった友人を探しに行ったら、自分も神隠しに遭って魔法の世界で冒険したという都合の良いストーリー。


 そしてそのじいちゃんの冒険が始まった場所がここらしい。


 手詰まりだって事は理解している。こんな事をしたって意味がないのかもしれない。だけど、可能性がないわけじゃない。ゼロではないのだ。


 誰に何と思われようとも、來依菜の手掛かりを見付けられるのなら構わない。


 だから、俺は探している。収穫はないけれど、意味がない事はないと信じたい。


「うー……寒ぃ……」


 けれども、季節は冬の真っ只中……。このまま無理をして体調を崩したりして、つむじに心配をかけたりするのも忍びない。


 今日も、何も見付からなかった。




   ‡  ‡  ‡




「ルンルンルンルルぅ……ていやぁッ!」


「ッァ!?」


 聞き覚えのない鼻唄が遠くに聞こえた気がすると共に、腹部に衝撃を感じて強制的に覚醒を強いられる。周りを見渡すがボヤけてよく見え無い。少しドタバタと音がしたような気がした。


 ボヤける視界の中、何とか時計を掴み取り、時間を確認する。


 午前七時丁度。


 少しダルさの残る体を無理矢理動かして、わかるけどわかりたくはないモヤモヤとした気持ちを抱えて一階まで向かった。


「おはよう!」


 寛ぎながらテレビを観ていたソイツは、俺に気付くと元気良く笑顔であいさつをする。……本日も不法侵入は健在らしい。


「何で今日も居るんだよ……」


 今日は休日である。


「それは……」


「繁じいちゃんとの約束で起こしに来たとは言わせないぞ」


「うっ……」


「はぁ……用件は?」


「朝から元気を分けてやろうと……」


「おうありがとー。もう元気いっぱいだから帰って良いぞ」


「えっ? いや、早くない!? 冷たくない!?」


「こっちはもう少し寝ていたかったんだよ」


「それは……ごめん。けど、元気なら良いんだ」


 つむじは少しばつの悪そうな表情を浮かべるも、すぐに笑顔を見せた。


 本当に優しいやつだ。馬鹿で不器用だけど、何処までも真っ直ぐな笑顔を見ていると、こっちまで笑顔になる。けど、眩し過ぎる。


「ところでさ」


 少しして、つむじの表情が唐突に神妙なものへと変わる。どうしたのだろうか? 珍しく真面目なの身構えてしまう。


「ご飯はまだか?」


「おやすみ」


「えっ、ちょっと待って!」


「図々しいにも程があるぞ」


「だって……朝早くから来たから食べる時間無かったもん……」


「いつ来たんだよ……」


「六時!」


「馬鹿だろ……」


 そもそも一時間の間何してたんだよ……。


「う、うるさいな……司の為に笑顔をデリバリーしてやったんだぞ!?」


 先を見ない行動には呆れるが、つむじなりの気遣いなのだろう。不器用だが、気持ちは伝わってくる。


 けど、やっぱり、元気が無いように見えるという事だろうか。


「お届けする頃にはすっかり冷めてそうだな、それ。……おばさんも大変だな……こんな娘が居て」


「絶対に司の方が冷めてる! あと、司の方が手が絶対に手が掛かる!」


「なら、つむじは熱すぎて焦げ付いてスッカスカになってるな」


「何の話かわからなくなって来たぞ……」


「つむじの頭の中身について」


「違う!」


 馬鹿みたいな会話を繰り返す。昔から飽きずに続けてきた、來依菜が居ても変わらないやり取りだ。


 本当に騒がしい会話。きっかけは來依菜の為だった会話だ。


 小さい頃、俺の両親が死んだ時から一年ほど來依菜は全く笑わなくなってしまった。


 その時から俺達は笑わなくなってしまった來依菜に笑って欲しくて馬鹿な事ばっかりしていた。


 そんなある日の朝、こんなやり取りをしていた時、少しぎこちなかったものの、遂に來依菜は笑ってくれた。


 それから俺達はそれを毎日続ける様になって來依菜も普通に笑ってくれる様になった。


 そして再び笑顔を見せてくれるようになって一年程経ったある日、來依菜はそんな毎日が大好きだと言ってくれた。


 だから俺もつむじもそんな風景を守ろうとしているのだと思う。


「おい司! 無視すんなよ!」


 つむじはいかにも怒ってますと言う雰囲気を出そうとしているがどうも迫力が無い。


「聞いてる聞いてる。つむじがアホ過ぎて辛いって話だろ?」


「もう! ……べぇーっ!」


 舌を突き出してそう吐き捨てたつむじは俺に背を向けてテレビの前へと陣取った。相変わらずワンパターンである。


「てかもう用事終わってんだから帰れよ……」


「……ふんっ」


「怒ってる?」


「うん」


 絶対嘘だ。テレビ見ながらおっさんの如く寛いでるし、返事軽いし。


「何様のつもりだ……」


「つむじ様だ!」


「ああ、近所の奥様方の間で、馬鹿過ぎて噂になってるっていうアホの子か」


「えっ……ホントに? そんな噂になってるの……!?」


「いや、冗談」


「騙したな!? と言うわけで飯をください!」


 どう言うわけだよ……。普通は騙されないし。……もしかしてアホな事を悩んでいたり?


「さあ、この困っている女の子を助けるつもりで飯を寄越すのだ!」


 いや、そりゃないか。


「女の子はそんな汚い言葉遣いはしません」


「ご飯下さい」


「潔いな……」


「まあねっ!」


 つむじは何だか自信満々だが、胸を張れる事なのかどうかはわからない。


 とはいえ、これ以上お預けをしていたら手を付けられなそうなので、手早く用意をする


 メニューとしてはオーソドックスな朝食でホットココアに目玉焼きとトーストだ。少しチープかもしれない。


 せめて前もって言ってくれれば、もっとちゃんとしたものを出して上げられたのに。


「ふむ……朝は忙しいからと言って手を抜いた朝食では駄目だぞ? 野菜を食え野菜を。そして果物も必要だ。あと肉、米も」


「下げるぞ」


 一瞬でも思ったの気遣いを返して欲しい。そもそもお前、野菜出しても食わねぇじゃん。


「うわー美味しそうなトーストに目玉焼きだ! それにホットココアもある! 気が利くなあ!」

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