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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
39/179

Flag5―真冬の桜―(7)

   ‡  ‡  ‡




 頭上に現れた魔方陣から電気を帯びた雨が大量に降り注いでいる。


 アタシが使ったのは水と雷の混合魔法。


 混合魔法は威力が高い分コントロールが難しいので使える人も少ない。


 そして〝結果知らずの大洪水〟は私の使える混合魔法の中でも最強クラスの魔法。


 これは学院内でも使える人も少ない……いや、多分居ないだろう。


 そもそもこの魔法を使った事自体が間違いかもしれない。この魔法は一見地味だが電気を帯びた雨の一つ一つが初級魔法程の威力を持っている。その上一発くらえば体が痺れて動けなくなるので一発くらえば逃れられる術は無い。


 どんな威力なのか簡単に表すなら森で使えば森の一角が荒野になるレベル。……やはりやり過ぎだ。今更遅いけれど、これは生徒指導行きかもしれない。


 もしそんな事とは無縁の優等生だった筈のアタシがそんな事になれば絶対アイツのせいだ。


 一週間程前に入ってきた変な転校生。


 男の癖に男らしく無い顔をしたアイツは最後まで私に抗った。


 茶色と黒が混じった大きな瞳で、腹立たしい程、真っ直ぐと私を見据えていた。


 何度も諦めろと伝え、心も折ろうとした。しかし諦めなかった。


 そしてアタシに〝結果知らずの大洪水〟まで使わせた。


 アイツは生きているだろうか?


 そんな事を考えていると、いつの間にか電気を帯びた雨はやみ、そのせいで舞っていた砂煙も少し落ち着いていた。


 見渡せる様になった第三演習場はアイツとアタシの……主にアタシの戦闘のせいで地面は抉れ、生えていた木々も薙ぎ倒され、最近は何故か見かけないが担任が授業中にいつも寝ていた木の長椅子も滅茶苦茶になっていた。


 そして演習場の中心、肝心のアイツは大丈夫だろうか。


 別にアイツの心配をしている訳じゃ無い。只、罪の無い人を殺すのが嫌なだけ。別に他人なんてどうでも良い。後味が悪いから…………それだけ。


 アタシが演習場の中心を確認するとアイツは制服もボロボロでうつ伏せになって倒れていた。


「はあ……」


 無意識に息が洩れた……。


 クラスの生徒と担任がアイツの近くに集まって来る。見る限りどうやら生きているみたいだ……。


 アイツは友人達に囲まれて医務室まで運ばれて行った。


 予想以上に時間を使ってしまったがアタシの勝ち。とは言えども、これだけ演習場が滅茶苦茶なら授業再開とはいかない。……となると、勝負自体は無効……いや、引き分けか。


 初めてだ。アタシがここに来て勝利以外を経験したのは。


「ふぅ……」


 再び息が洩れる。しかし今回洩れた息はさっき洩れた息とは違う。


 今回は息が洩れたと言うよりも溜め息をしたと言う表現が正しいのかもしれない。


 最初に洩れた息は安堵の息。情けないが私は戦っている内にアイツが恐くなっていた。


 理由は二つ。


 一つは瞳。


 アイツの意思の強い瞳は最後までずっと変わらなかった……アタシとは……違った。


 アイツは諦めを知らないのだろうか? どうしてあんなにも足掻くのだろうか。



 わからない。



 アタシは自分で理解出来無い事を腹立たしく思いながらもそんな疑問を頭の片隅へと追いやる。


 話を戻そう……アタシは何を考えていたっけ……ああ、アタシがアイツを恐れた理由の二つ目か。


 二つ目の理由……これが一番腹立たしい。


 アタシがアイツと戦っている時、何故か自分と戦っている様に感じた。


 何故なのかはわからない……けど、そう見えてしまった。



 諦めないアイツが……。


 アタシよりも弱いアイツが……。



 ……いや、アイツはアタシよりも強いのかもしれない。



 絶対に揺るがない心。


 臆病なアタシとは大違い。



 真っ直ぐで綺麗な瞳。


 アタシはあんなにも綺麗になれない。



 そして現にアタシはアイツに負けていた。


 気持ちでも負けは負け。屈辱的だ……あんな奴に引けを取るなんて……。


「っ……」


 少し、景色が歪む。


 多分魔力を使いすぎたのだろう……ムカついたからとは言えアタシの契約武器の《贖罪のジューン=クルサード》を使い、能力である〝ブライズ・フォース〟を多様して、最後の方は上級、最上級を連発した。


      ハイブライズ・デリュージ

 そして〝結果知らずの大洪水〟にありったけの魔力を込めた。


 感情的になってやり過ぎたのはわかってる……けど、こうでもしないかぎりアイツは立ち上がって来そうだった。


 ふと演習場を見渡すと滅茶苦茶になった演習場の報告を終えたのか担任が入口の方から真っ直ぐとアタシの方へ向かって歩いて来た。


 目的はわかる。……まさかアタシが生徒指導とは……アイツのせいね。


 けど、担任には悪いけど、今すぐには行けない……それもアイツのせい。


 やはり腹立たしい……。


 ああ……腹立たしい……。本当に何なのよ……これじゃあアタシの勝ちじゃなくて引き分けじゃない。


 いや、アタシは気持ちで負けていたんだっけ……。



 負け、か。



 ああほんとにムカつく。次あったら殴ってしまうかもしれない。いや、いっそのこと殴ってやろう。



 誰も寄せ付け無い強さを持った筈のアタシが……。


 誰も寄せ付け無い様に強くなった筈のアタシが……。


 そしてこの髪色と性格のせいでいつの間にか《真冬の桜》などと不名誉な仇名を付けられていたアタシが……。



 初めて敗北した相手……。


 だから名前を覚えておこう。



 “ツカサ=ホーリーツリー”次は絶対アンタなんかに負けない。



 そう心に強く刻んだ時、アタシは意識を手放した。

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