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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag1―過去と未来と現在と―(1)

 ――ここは……どこだろう……?


 目前には古く趣きのある屋敷がそびえ立っている。


 扉を潜り、中に入ると幼い子供が三人と老人が小さめのテーブルを囲んで話をしている。テレビも点いているが誰も気に留めていない。



 ――声が聞こえる……



『ワシだって若い頃は凄かったんじゃからな、それは何十年も昔の事じゃ……』


 白髪に長い髭の老人が昔を懐かしむ様にその茶色混じりの黒い瞳で遠くを見据え、どこか楽しげに……しかし切ない顔で話始めた。


『またその話かよ、いい加減他の話ししてくれよー飽きたー』


 しかしその老人に対し、老人と同じ茶色混じりの黒い瞳を持った黒髪の男の子は口を尖らせて文句を言い始めた。


『ワシの出来る話はこれだけといつも言っておるじゃろ?』


『そ、そうだったっけー?』


『そうじゃよ、そもそも飽きたのなら何でいつも来るんじゃ?』


『そ、それはつむじと來依菜くいなが繁じいちゃんの話を聞きたいって言うから……』


『わたしたちのせいにしないでよー』


 そんな男の子の言葉につむじと呼ばれた黄色い瞳の女の子は同じく黄色い髪を揺らして先程の少年の様に口を尖らせて文句を言い、


『最初に言い出したのはお兄ちゃんだよ?』


 また、來依菜と呼ばれた空色の髪と同じく空色の瞳の一番幼く見える女の子は男の子に対して追撃を始めた。


『な、何いってんだよ來依菜……!』


『何だかんだでつかさが一番繁じいちゃん好きだよね?』


『そ、そんなわけ……』


『アハハお兄ちゃん顔まっか―』



 ――そうか……


 ――これはあの日……


 ――絶対に忘れないであろう、今思えば……全ての始まり日……。


 今思えば……幸せな日常だっただろう。


 そんな日常を壊したのは意外にも、団欒の端っこで静かに主張していたテレビだった。


『臨時ニュースです。青見原科学研究所で爆発事故が起こり火災が発生しております』


 スタジオに居るアナウンサーが手短に説明をすると画面は直ぐに火災現場に切り替わった。


『なお現在警察は原因究明と共に消火活動に当たっております。繰り返します……』


 その後のテレビは同じ事を繰り返すだけだった。


『わー司ーすごい燃えてるよー?』


『そうだなー』


『あおみはら……かがく……?ねぇ、お兄ちゃん、何か聞いた事ある名前だねー』


『ん―? そうかなー? ……どうしたの繁じいちゃん?』


 そう問いかけた時の繁じいちゃんの年輪の刻まれた顔に浮かぶ表情は険しくて。


『司、來依菜、良く聞きなさい。そこはお前達の両親の仕事場じゃ……』


『えっ……』


『で、でも! おとーさんもおかーさんも大丈夫だよね? お兄ちゃんもそう思うよね……?』


『う、うん……そうだな』


 無意識の内に自分を安心させようとする來依菜の言葉に対して、俺は何も考えられずにそんな言葉しか出て来なかった……。




 次の日、俺は真っ暗な部屋の中で特に何をするわけでもなく、テレビをつけた。


 來依菜は自分の部屋から出てこない。


 そんな時、テレビの独白だけが主張する部屋に単調な電話の呼び出し音が繰り返し鳴り響いた。


 俺は足下なんて録に確認しないまま、電話の前に移動して、受話器を取った。


『……もしもし』


『……司か?』


『うん……』


『……これから、どうするつもりじゃ? ワシと暮らさんか?』


『ううん、……來依菜はここを出ようと思わないし、思い出も……あるから……』


『……お前は良い子じゃな……』


 受話器の向こうで少し、嗚咽が聞こえる。


 やめてよ……。


 だけどそんな言葉は口に出来なくって。


 そんなことを言われると、我慢していられなくなってしまう……。


『ありがとう……繁じいちゃん……』


『何もしてあげられなくてすまんのぅ……』


『そんなこと……ないよ……』


 噛み締めた唇で必死で言葉を紡ぐと少し鉄の味がした。


『……それと、ワシの我が儘を一つ……聞いてくれんか?』


『……何……?』


『……たまにはな……ワシに会いに来てくれんか?』


『えっ……?』


『もちろん三人一緒でじゃ……。お前達兄妹もそうじゃがつむじちゃんもワシの孫のみたいなもんじゃからのぉ……』


 受話器の奥でしゃがれた笑い声がする。


『…………』



 無理だ……そんなの……



『ワシも歳じゃ……たまには孫の顔でも見んと寂しくて死んでしまうんじゃよ。どうかこんな老いぼれの願い、聞いてくれんかの?』



 卑怯だよ……



 ずっと、ずっと堪えてたのに、意味ないじゃないか。


『そ、そんなの当たり前……だ……何、言ってんだよ。俺は……繁じいちゃんが嫌って言っても來依菜が嫌って言ってもつむじが嫌って言っても……絶対に、無理矢理にでも……連れて会いに行ってやるからな……』


『ありがとう……自慢の孫じゃ……』



 その後の事は覚えていないけれど、多分ずっと泣いていたと思う。


 ――ただ、それでも、その時も微かにリビングから洩れていた音が今でも耳にこびり付いている。



『……県警は青見原科学研究所爆破事件の容疑者として片桐かたぎり宏樹ひろきを指名手配しました。また、この事件の死傷者136人の内、死亡者は122人にのぼると思われます。なお死亡者と予想されるのは笠本かさもと孝哉たかやさん、ひいらぎ吹雪ふぶきさん、ひいらぎ美幸みゆきさん……』

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