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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag3―試験と試練―(6)

「いや、コーチは悪くないよ」


「気合い入れすぎて五倍ほど量ミスったつっても?」


「よし、ちょっと食い縛れ」


 いくらなんでも五倍は酷い気がする。


「だって、ツカサの心意気に感動しちゃったんだもん……もん……もん……」


 コイツは本当に謝る気があるのか。


 コーチは指先を合わせてツンツンしながら、いつまで経っても「もん……もん……」と言い続けていたので、正座で待機させて、俺は魔力を流す役目をルーナに頼んでみることにした。


「そ、そんな、無理ですよ……」


「ルーナちゃん俺より魔力の扱い上手いじゃん、へーきへーき」


 ねぇ、このパンツ野郎いい加減殴っても良いかな?


 どんな言い方であれ、クラスメイトに背中を押されたルーナは、少し迷った後、俺の目を見ると、「……わかりました」と言い、頷いた。


「い、良いですか……?」


 背中を通して、ルーナの手が震えているのがわかる。……何か俺までドキドキしてきた。


「う、うん……」


 何だろう、この状況は。耳元でルーナの息遣いが聞こえる。よくわからないけど、凄く気恥ずかしい。


「うふふ……ふふっ……」


 しかし、いつまで経っても魔力は流れず、気付けば耳元の息遣いは笑い声に変わっていた。


 いや、それにしては何処か艶かしく、嫌に不気味だ。


「る、ルーナ……?」


 恐る恐る振り返ると、ルーナは笑っていた。いや、笑っていないというのか。口角は上がっているものの、目は笑っておらず、据わっている。


「や、やっぱりもう一回コーチに頼んでみる事にするよー……」


「えぇ? どうしてですかぁ? 大丈夫ですよぉ? 司さん? 私に任せるって言ったじゃないですかぁ」


「こ、コーチ……お願いしても良いよな?」


「お、おう……」


 あのコーチですら気圧されてしまうほど、今のルーナの様子は異常だ。


「ほ、ほら、コーチもこう言ってるし……今のルーナはちょっと落ち着いた方が良いって」


「落ち着くぅ? ええ? 落ち着いてますよ? 何を言ってるんですかぁ? ふふっ、可笑しな司さん」


 これは駄目だ。さぁ、逃げろと俺の第六感が告げている。そして今俺の横で急に爆発が起こった。


「ふふっ、逃がしませんよぉ?」


 笑った。こんなに素敵なのに、どうしてここまで恐怖心を煽るのだろうか。


 俺とコーチは走り出した。生きるために。






「すみませんでした!」


 すっかり落ち着いたルーナが頭を下げる。


 まさか緊張が極限に達してしまうとあんな風になるとは……。


 コーチは、ルーナが緊張に弱い事は知っていたが、ここまで弱いとは知らなかったらしい。学院での成績が、魔法実技だけがトップクラスではないらしいのだが、その原因は緊張ではないかとのこと。地面が一部溶けていたり、焦げていたりするのを見ると、それも納得出来る。


 何故ルーナがあんな風になってしまったのかはわからないが、それについては触れない。落ち込んでいたルーナが漸く謝罪の言葉を連呼しなくなったというのと、今更蒸し返すのは責めているみたいで好きじゃない。


「あの、私が言うのもあれですけど、練習……どうします?」


 練習再開。先の反省もあり、今回もコーチ魔力を流してもらう事になった。


 ミスったら今度こそ殴ってやろうと思っていたが、痛いことは痛かったものの、さっきよりは幾分マシで堪える事が出来た。


 目を閉じ、体に流れてくるものを意識する。痛みだけではない、別のものを模索する。すると、体の内側の方へと染み込んで行く何かを感じた。


「……どうだ? ツカサわかったか?」


「ああ、多分……」


「では右手に集めることは出来ますか?」


 目を閉じて、ルーナ言われた通り、内側に感じた何かを右手に集めようとしてみる。


「おっ……?」


 すると、右手に何か感じた。瞼を上げると、そこには薄っすら、半透明な淡い光のようなものが集まっていた。


「出来てますよ司さん! それが魔力です!」


 コツを掴めば意外と簡単らしい。自由に魔力を集めることが出来た。これなら案外簡単に魔法を使えるようになってしまったり……?


「それでは魔法の練習に入っていきましょう。私がやってみますので、見ていて下さいね」


 ルーナは少し先にある岩に向けて腕を伸ばし、手の平を向ける。


「〝フレイ〟」


 そうして、ただ一言口にすると、ルーナの手の平の前に、に青白く光る円に囲まれた五芒星……魔法陣が浮かび上がり、そこから小さい炎の塊が放たれた。


「さあ、やってみろ」


「いや、無理」


「まあまあそう言わず、今のをイメージしてやってみろよ。案外簡単に出来るかもしれないぜ?」


 魔法を発動したのはルーナなのに、何故コーチがドヤ顔で仕切っているのか。しかし確かに何事もやってみないと始まらないのもまた然りだ。


 俺はさっきと同じ様に右手に魔力を集め、ルーナと同じ言葉を口にすると、俺の手の平の前に青白く光る魔方陣が現れ、そこからルーナのものよりも巨大な炎の塊が放たれた。


「あっ、出来た……」


「……魔力の込め過ぎだな。今の魔法にそこまで魔力は必要ねぇ。まっ、最初の頃にはよくある事だ」


 魔力の込め過ぎか……。しかしそれよりも気になる事が一つ。


「なあコーチ、今の俺の魔法陣、何か変じゃなかったか?」


「それって五芒星じゃなくって四芒星だったってことか?」


「ああ、それだ」


 俺はルーナと同じ様に魔法を発動した筈なのに、浮かび上がった魔法陣の模様が少し違った。


「それは四芒星が《テトラグラムの魔法陣》で五芒星が《ペンタグラムの魔法陣》だ」


「何だそれ?」


「まあ、別に名前は覚えなくても良いんだけどな。簡単に言っちまうと《テトラグラムの魔法陣》が体内魔力だけで構成されているのに対して《ペンタグラムの魔法陣》は存在魔力が混じってんだ」


 なるほど、さっきルーナが言っていたやつか。しかし、それなら何故、魔法陣が変化したのか疑問に思い、訊ねてみたところ、魔法が複雑になるから、とのこと。


 そこで、肝心のその方法を聞いてみると、またもや感覚らしい。魔法を発動する際に周囲の魔力を巻き込む様にすれば良いと言われ、半分くらい疑ってやってみたのだが、本当に出来た。


 俺はさっきと同じ魔法を発動したのだが、同じ大きさの火の塊が出たのにも拘わらず、消費した魔力は半分だった。


 上手な人は十分の一まで抑える事が出来るそうだ。俺は初めてにしては上々な方らしい。


 何だ、簡単じゃんとか思ってしまったが、先程から使っている〝フレイ〟を始めとする火、水、風、地の四属性の初級魔法は基礎魔法と呼ばれており、簡単なので初等部で習うものだと釘を刺されてしまった。確かによくよく考えてみれば、学園長に言われたのは中級三つと上級一つだ。道はまだまだ遠いのかもしれない。

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