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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag3―試験と試練―(3)

「正直、まだまだ言い足りませんが、今回はこれ位にしておきましょう。お客さんの前でみっともないですしね」


「あっ、一応俺まだお客さんなんだ……」


 だがしかし手遅れである。


「さ、さあ……どんどん明日の事を話し合おうじゃないか……」


 何はともあれ、みっともない人も立ち直ったので話は進められる。


「とは言っても……学院に行くくらいなんだけどね……」


「わかりました。その後はどうしますか?」


 語気が弱いナイトさん。そもそも断るつもりはないけれど、流石に断れない。


「私は……少し仕事の用事があるから司君の自由にしてくれ……」


「それじゃあ、道案内も兼ねて観光しませんか?」


「ルーナが案内してくれるのか?」


「はい! 私で良ければ」


「や、やっぱ今の無し! 仕事は休む!」


「駄目です。仕事してください」


 ブレねぇな……この人。


 この後、みっともない大人を宥める役目が俺になったのは言うまでもない。




 色々と面倒だった夜が明け、空は青い。初めて見た快晴の元の街並みは、夕刻の幻想的なものとはまた別で、どこか心地好さの感じられる風景だった。


 そんな街を、ルーナとナイトさんの後ろで密かに闊歩する気分で付いて行き、門を潜り、城のような大きな建物の中に入っていった。


 どうやらここが王都魔術学院の校舎らしい。


 何でもその規模はこのリアトラ中心部の土地の半分以上を占めるらしく、ここまで大きくする必要があるのか疑問に思えたが、この土地の中には初等部、中等部、高等部に加え、色々な環境を想定した演習場などが多数入っており、学生寮や民間人なども利用することが出来るような店等も多いらしい。この大きさも納得である。


 白を基調とした、大理石が顔を覗かせる道を進んで行く。魔術学院と聞いて、禍々しい所と思っていたのだが、そんな事は全く無かった。清潔感があり、全然息苦しくもない。


 何だかもう凄いとしか言いようがない。本当にナイトさんい言う通り入学することが出来るのだろうか?


「は? 無理に決まっているだろ」


 現在、東西南北と中央の計五つある校舎の真ん中、つまり中央校舎、職員室や講堂と言ったものが集まっている校舎の最上階、大きな木製の扉の先、学園長室に俺達は来ていた。


 そこで、ハスキーな声に「お前ら馬鹿じゃねぇの」という追い打ちを頂いたところである。


「ルイス……前もって言っただろう?」


 ナイトさんの言葉の先に居るのはウェーブがかった紫の髪と同色の瞳を持った、スーツ姿でスタイルの良いお姉さん。


 先程「は? 無理に決まっているだろ」という言葉を発した本人であり、紛れもない、王都魔術学院の学園長本人である。尚、何故学院なのに学園長なのかはルーナも知らないらしい。


「えっ? ……いや、聞いてない……多分」


「レイラから聞いてないか?」


「…………あー……昨日の朝……いや、聞いていない!」


 目が泳いだ。てかはっきり“昨日の朝”って言ったじゃん。


「はぁ……お前は何時まで経っても……」


 頭を抱えるナイトさん。でも俺は思うわけですよ。ナイトさんも相当大人気ないですよねと。


 しかし多分、今は子供の出る幕では無いのだろう。ルーナは呆れた表情を浮かべているものの、口は出す素振りは見せていない。下手に俺が口を挟むよりも、一番しっかりしている人に合わせておくのが無難だ。


「う、うるさい! そもそも急に編入手続きをしろと言う方が可笑しいだろう!」


 何だろうこの人……ザ・大人の皮を被った子供って感じがする。高圧的な物言いと態度だけど、何故か憎めないのは多分そのせいだ。


 しかし、この場合無茶を言っているのはこちらである。


「ちゃんと手紙も目立つ封筒に入れて出したんだが、見てないのか?」


 いつの間にそんな物を……あれ? 手紙って届くまで最低でも一日は掛かるような……まさかそんな前からそのつもりだった……? いや、でも魔法の世界だし……。果たしてこの出来るのか出来ないのかわからない大人は、どこまで考えていたのだろうか。


「目立つ封筒と言われても……ま、まさか……これか……?」


 学園長が震える手で木製の大きな机から取り出したのは一通の封筒。……但しびっしりとルーナがプリントされている。


「あ、ああ……すまない。私が悪かった……」


 学園長が折れた……。何かよくわからないけど、諦めたらしい。


「そうか! ならば良し!」


 一方何故か誇らしげなオッサン。多分ルーナの可愛さで学園長を懐柔出来たとでも思っているのだろう。


 ドン引きである。


「但し、条件がある。えっと、名前は……」


 冷や汗が止まらない俺に、学園長は問い掛ける。一瞬、焦りから本名の方を言いそうになったが、何とか堪えて、出来るだけ堂々と名前を伝えた。


「そうか、ツカサ。いくらそこの親馬鹿の紹介とはいえ、ここは王都魔術学院だ。タダで入れる訳にはいかない。わかるな?」


「それはつまり、試験をするという事ですか?」


「ああ、貴様は馬鹿そうな顔はしていないから……そうだな、三日後、中級魔法を三つと上級魔法を一つ見せてくれ。それが最大限の譲歩だ。良いな?」


 ……馬鹿そうな顔をしていたら学力試験も追加されていたのだろうか?


「わかりました」


「では三日後。期待している」


 そう言い、学園長と握手を交わして、スベスベだったとかは兎も角、話も早々に仕事があるとかで学園長室から追い出されてしまった。


 ……さて。


 どうやって残された危機から脱出しようかを考える。さっきはずっと堪えていたであろうルーナさんの顔を見るのが怖い。


 しかし、そうも言っていられない。悩んだ結果、見て見ぬふりをすることにして振り向いたのだが、何やら様子が可笑しい。


「ルーナ、一体どうしたんだ?」


「司さん、大変です」


「大変? 何が?」


「魔法です」


「……普通にわかりましたって言っちゃったけど、そんなに大変なの……?」


「初等部から高等部一年までの範囲を三日で学べって言ってるようなものですよ!? それに加えて上級まで……」


 頭を抱えるルーナを見ると、事態が中々に困難な状況である事が伝わってきた。


「取り敢えず、出来るだけやってみるよ」


「よし! それなら今から練習しよう! 残念ながら私は仕事があるから同席は出来ないけどね。いやあ、残念だ。非常に残念だよ!」


 オイコラオッサン。ちょっと喜んでんじゃねぇよ。


 勿論この後、ナイトさんはルーナに〆られました。

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