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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag8―魔導―(8)

 やはり横着しては駄目だなと溜め息をつきながら、職員室の引き戸に手をかけ、ドアをスライド――


「…………」


 スライ――


「…………」


 スラ――


「…………」


 ス――


「くそがぁ!」


 全く開かないドアに八つ当たりで蹴りを入れる……が、静まり返っている廊下に虚しく音が響いただけだった。


「はぁ……」


 八つ当たりのお陰か、少し落ち着いたが、蹴った時、中々に大きい音がした為、一応見てる人が居ないか確認し、再び溜め息。


 流石にこれはおかしい。いくら行事があったからと言って、この時間帯に職員室に誰も居ないのは有り得ない筈だ。となると、何らかの事情があるのだろうか。


 何となく好奇心に駆られた俺は、その事情を知っているであろう人物の元へ、居ることを願いながら向かう事にした。


  目的地の扉の前までに着き、右手の拳を軽く握り、ノックしようと構えたところで、あの学園長相手に恭しい対応をしても意味がないことに気付き、構えていた右手を、そのまま扉の取っ手に引っ掻けて手前に引く。


 演習場や職員室の時とは違い、すんなりと扉が開いたことに安堵。


 流石に無言は忍びないので、一応声挨拶をしながら入室する。


「失礼しまー……」


 言葉に詰まった。扉を開き、室内の光景が目に写る。この一瞬の動作の間に、自分でもわからないほど、色々な事を考え、感じている。とりあえず、真っ先に理解出来たのは後悔している、と言うことだ。


 俺の目線の先には、下着姿の学園長。その女性らしい見事な曲線美にとても綺麗な白い肌。正直、発育は良いが教育に悪い。


 そして頭に浮かぶのは疑問符や言い訳。とにかく頭の整理がつかない。その癖しっかりと見てしまうのは悲しい性だと思う。


 こんな時、頭が真っ白になるものだと思っていたがどうやら違うらしい。この一瞬がとても長く感じる。


 学園長は俺に気付き、恥じらいを見せたような気がしたが、どこかで見たことがあるような巨大な拳が迫って来たことにより、真実は俺の意識共々、闇の中に埋もれることとなった。




   ‡  ‡  ‡




「……っ」


 何があったのだろうか? あまり思い出せない。


 そして何故か身体中が非常に痛い。


 閉じていた目を開き、現在の状況を整理しようと試みる。


「…………」


「どうしたのかな?」


 俺はそっと目を閉じる。


 これは夢だ。きっと夢だ。


 目の前に変態白衣の顔があるなんてきっと悪い夢に違いない。夢の中で寝れば、きっと次に起きる時は現実の筈。サラバ、そしておやすみ悪夢。もう君とは二度と逢いたくない。


「出来れば起きてくれないかな? 美しい僕でも困る事もあるんだよ?」


 ゆっさゆっさと揺さぶられる体。……出来れば夢であって欲しかった。


 これ以上現実逃避をしても意味がないので、変態の顔が近くにないことを気配で確認し、目を開き、現在の状況を確かめる。


 俺は学園長室のふかふかのソファに寝かされているらしく、起き上がると、正面に心配そうな表情を浮かべているシャルル保健医と、達筆な文字で「学園長」と書かれた、少し古く見える硬い紙で出来た三角柱が置かれている机の後ろで、ソファと同じくふかふかな椅子に深く座っている学園長が見えた。


「悪かった……つい条件反射でな……」


「えっと……どうして謝って…………あっ……」


 学園長に謝られ、何事なのかと思ったが、直ぐ様謝られた理由と気絶する前に脳裏に焼き付けた光景を思い出す。尚、脳裏に焼き付けたのは不可抗力であり、決して自分の意思ではない。……決して。


「おいおい、どうして二人して固まっているんだい? 美しい僕にもわかるように説明して頂けない……かな!」


「白衣脱ぎながら喋んな」


「ハハッ、辛辣だねぇ。けれどどうだい? 僕は美しいだろぅ!?」


 うぜぇ……つーか、会話自体が成り立ってねぇ……。


「……ツカサ、そこの馬鹿は構わなくていい」


「アハーン! ルイスも美しい僕を見ても良いんだ――」


 ……目の前から変態が消えた。少し大袈裟な表現かもしれないが、学園長に殴られた変態は消えたと見間違えてもおかしくない速度で扉の方へ吹き飛び、扉にぶつかり、退出なさった。


「さてツカサ、変態が消え――」


「まだまだ甘いようルイス! 美しい僕――」


「我求めしは魔神の腕〝サピーナ〟」


 巨大な禍々しい腕が二本、学園長の詞に呼応して現れ、シャルル保健医を殴り、殴り、叩き、握り潰し、また殴り……。


「えっ……ちょっ……学園長……?」


 まだひたすら殴り、殴り、殴り、殴り、漸く止まったと思ったら、既にシャルル保健医ぼろ雑巾の様で、学園長はゴミを見るような目でそれを一瞥した後、禍々しい腕を使って窓から投げ捨てた。


 酷すぎ笑えない……。そして技術の無駄遣いがやべぇ……。


 学園長は何事もなかったかの様に話を切り出す。……この人の機嫌を損ねるのはやめよう……死ぬ……。


「とりあえずツカサ、さっき見たことは忘れろ」


 どれの事を言っているのかわからないが、とりあえず何度も頷いておいた。


 そして学園長に促されて俺はソファに座り、学園長も向かい側にあるソファに腰を下ろす。


「ところで、どうして私の所を訪ねてきたんだ? あれか? お前は教師相手に覗きをするのが趣味なのか?」


「鍵も閉めずに着替えるのはどうかと思います」


「貴様もノックをしなかっただろう?」


「うっ……」


「まあ良い、とっとと忘れろ」


 多分無理。


 学園長は自身に言い聞かせるかの様な口調で言った後、先程の質問の答えを促してくる。


「ああ、そうでした。演習場の鍵を貸してください。それと差し支えなければ職員室が閉まっていた理由も教えてください」


「差し支えなければ……か。その割には私に拒否権は無い様に思えるんだが」


「何度も遠回りさせられましたから、理由位は知りたいんですよ」


「そうか、それは悪かったな。なぁに、ちょっとした出張だよ。出張するのは一部で、その一部を準備の為に帰らしたんだが、帰らした者と他の者が同じ給料なのもどうかと思ってな」


 学園長はそう言い、「とは言え」と言葉を繋ぐ。


「魔闘祭で疲れているのは運営している教員も同じだろうから、休ませる為といのが本命だがな」


「……そうですか、それで演習場の鍵は貸して頂けるんですか?」


「何だ……不満そうだな……」


「いえ、気のせいです」


 正直な所、不満だ。学園長の言い方に違和感だって感じる。


 学園長は「教師を休ませる」ことを本命と言っているが、なんだろう……それが建前で、本命は別にある気がする。


「そうか……。演習場だが、申し訳無いが休み明けまで使用禁止だ」


「理由は……?」


「教員が居ないのに使わせるわけにはいかない。しかし、この事は魔闘祭終了時に言ったのだが聞いていなかったのか?」


「……すみません」


「はぁ……人の話は聞くべきだぞ?」


 ……この人に言われると複雑な気分だ……。だが、それも紛れもない事実なのでしっかりと返事はしておいた。

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