一話 邂逅
出逢った瞬間に確信した
そう――――
「折角、可愛いんだから、もっと女の子らしく喋った方がいいぞオチビちゃん」
この女は生涯の敵だと
※ ※ ※
面倒は嫌いだ
人付き合いは面倒だ
真面目な空気なんて死んでしまう
一度しかない人生だ
肩の力を抜いて楽に生きればいいのに少林寺拳法部の皆は馬鹿みたいに真剣に取り組んでいる
真剣だが、努力の方向性を間違えるせいで新入部員が二人だけという無様を晒すのだ
合気道部くらい和気藹々と出来ないのか
今日も、なんか練習がどうとか、大会に向けてどうとか、練習時間が終わったというのに馬鹿みたいにミーティングをしている
携帯を弄りながら聞き流していたら、「聞いてるのか?」と先輩に怒鳴られた
「あー、はいはい。聞いてますよ?なんで携帯弄ってるかですか?いや、ミーティングとか時間の無駄ですし」
思ったことを素直に言ったら、呆れられて追い出された
うん、ラッキー
正直者で良かったわ
ついでにミーティングに関係ない後輩達も解散となった
「ナイス先輩!」
「いいってことよ」
後輩はいい感じに適当で敬意が足りないから嫌いじゃない
かったるいミーティングから解放された後輩達はそれぞれ帰っていった
後輩が全員帰った後も、同期と先輩はミーティングを続けている
ご苦労な事だ
私もさっさと帰りたいところだが、寮生である私は弓道部にいる我がルームメイトを迎えに行かねばならない
成績が下の下である一般生徒の私は一人部屋が与えられる定員50名の菊花寮になど勿論、入れず、二人部屋の桜花寮に押し入れられた
もっとも、ルームメイトを迎えに行く理由は単純に部屋の鍵を机の上に忘れたからなのだけど
武道場を出ると隣に、弓道場が立っている
弓道部は部員内でモチベーションに差があり、我がルームメイトは割とやる気のある方である
それ故に帰りがいつも遅い
夜の八時まで帰ってこないことなどざらだ
鍵を忘れた日にはいちいち借りに弓道場に赴かねばならない
冬の寒い夜に部屋の前で待ち惚けなんて冗談ではない
「たのもー」
弓道場の扉を道場破りの気分で開け放つ
いつも通り、弓道場は閑古鳥が鳴いており、人影は一つしか存在しなかった
「やほー、精が出るね。鍵貸して」
相手は構えていた弓を降ろし、こちらを向く
そして、気付いた
「誰?」
知らない人だこれ
ルームメイトはもっと身長あるし、私が扉を開けた時点で小動物のようにビクついて振り返っているはずだ
私と目線の変わらないオチビではなかった
「……お前こそ、誰?」
「何?知りたい?知りたいの?気になるんだー?」
「……」
「通りすがりの道場破りさ」
「……ウザい」
不機嫌さが増した
というかマジでキレる五秒前って感じだ
面倒は嫌だし、煽るのはここまでにしておこう
「もう、そう怒るなよー。私と君の仲じゃんよ。ところで難波いる?」
「……難波先輩なら帰られました」
さっきまで煽ってきた相手の質問に素直に答えてくれるあたり真面目な娘なようだ
ルームメイトが先に帰っているとは、とんだ無駄足だ
「難波が先輩ってことは歳下か。高等部一年かな?」
「……!……そう見えるか?」
不機嫌さが一瞬で消し飛ぶほど食いついた
さては、私と同じく身長のせいで子供扱いされてる子だな
「おうとも、私も154cmで高等部二年だ。君が一年でも何もおかしくないとも」
「……そうか……なるほど」
「うんうん。折角、可愛いんだから、もっと女の子らしく喋った方がいいぞオチビちゃん」
「……は?」
おや、険が増した
地雷踏んだかな
要件は済んだし、さっさと退散するか
「それじゃあ、さらばだオチビちゃん。もう会うことはあるまい」
私は台風から逃げるように弓道場を後にした
尚、オチビちゃんこと須々木 舞衣に目を付けられ、よく絡まれることになるがその時の西九条 静香は知る由もなかった
静香が部活の仲間に好意的ではないのは真面目だけど敬意を抱けるほど芯の通った理念を持っていないからです
一本芯の通った人間は苦手だけど、敬意を払う人間なんだよ静香
名前と違ってウザいぞ静香
最後のは煽るつもりないんだぜ?