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序.雛、蛇に遭遇する。

 突然だが、雛は、蛇が好きだ。

 因みに、同じにょろにょろ系でもミミズは大嫌いである。

 雛から言わせれば、ミミズはうにうに系で全く可愛くないし、得体が知れなくて不気味だ。


 雛の蛇好きは、間違いなく、育ての親である大ばば様の影響だ。

 物心ついた頃から雛は、大ばば様とお社の蛇神様へのお参りを、毎日欠かしたことがなかった。

 今でもお社の参拝は雛の日課だ。

 大ばば様はある出来事をきっかけに、お社への参拝を止めてしまったけれど。


 蛇は、蛇神様の遣いだと、大ばば様に教えられた。

 だから絶対に、粗末に扱ったり、虐めたりしてはいけない、と。


 幼い時分、蛇が好きすぎて構いすぎて、噛まれて熱に魘された苦い思い出もあるが、雛はそれでも、蛇を嫌いにはならなかった。

 実は、大ばば様がお社に行くのを止めたのは、雛が蛇に噛まれて苦しんだことが原因だったりする。

 きっと、あの件をきっかけに、大ばば様の中で蛇神様の印象も悪くなったのだろう。

 幼さゆえの短慮ではあったのだが、蛇神様にも蛇さんにも大ばば様にも申し訳ないことをしたと思っている。


 あのときのことを教訓に、蛇に過度に近づくことはしない。

 けれど、あの曲線美を、にゅるにゅるでにょろにょろな優美さを、円らな瞳を見ると、じっと観察せずにはおれない。 先が割れた薄くて長い可愛い舌がちろちろしているところなんて、もう、ずっと見ていられる。 鱗の枚数とか、一日数えていられる自信もある。

 結局のところ雛は、蛇さんが大好きなのだ。


 さて、雛は現在、蛇神様のお社からの帰り道なのだが、やはり好きなものはどこにいてもすぐに目に付くし、見つけられるものらしい。

 寒空の下、積まれた枯葉の中から覗く小さくて白い可愛い頭を見つけてしまったのである。

 あれは絶対蛇さんに違いない!


 真っ赤なお目目がとっても可愛い。

 雛は条件反射で蛇に近づき、膝を折ってじぃぃと蛇を見つめた。


 ここまで近づいても、蛇は動かない。

 ということは…。


 雛は緊張と興奮に震えそうになりながら、蛇の目の前で手を振ってみた。

 やはり、動かない。


 ということは…、これは蛇さん、冬眠状態ですかっ!?


 そろりそろりと手を伸ばし、その艶めかしい鱗に覆われた体を撫でてみる。

 これが、これが、蛇さんの体っ…!!!

 興奮と緊張に、雛の手は震えた。

 決して寒さのためではない。 寒いとは言っても、吐く息が白くならない程度だ。 どうってことはない。


 蛇さんの触感に関して色々なことを語りたいし、できるだけを伝えたいのだが、それを言い表す的確な表現が見つからないのが辛い。

 敢えて言うのなら、「ぷにつるさらざらっ」という感じだ。

 今雛は、憧れの蛇さんの体に触れている。

 どうしよう、興奮しすぎて呼吸が辛くなってきた!


 しばし胸を押さえて、浅く呼吸を繰り返していた――うまく呼吸ができずに深呼吸にならなかったのである――雛だが、こうしてはおれない。

 蛇が体を隠している枯葉を、手でぱぱぱっと避ける。


 そうすれば、綺麗にとぐろを巻いた胴体が露わになって、目眩がしそうになる。

 こんなに綺麗にとぐろが巻けるなんて、この蛇さんは逸材ではないだろうか。


 雛は震えそうになる手を叱咤して、蛇の首の部分ととぐろを巻いた胴体部分をそっと持ちあげる。

 それでも蛇は、ぴくりとも動かない。


 雛は、ごくりと唾を飲み込んだ。


 もう、これは、あれですよね?

 お持ち帰りしてもいいって、ことですよね?



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