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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第三章 誕生、ユーフォリアの看板娘
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八話 お母さんの裏技特訓!


 珠実園でのお仕事は体力勝負だったけれど、ユーフォリアでのお仕事も最初の頃は冷や汗と苦労の連続だったよ。


 本格的な接客業も当然初めてだったし、よくレストランなどで見るお皿の持ち方だって、実際にやってみると大変だ。


 なんとか落とすことはなく頑張っていたけれど、菜都実さんに何度も助けてもらってなんとかドジを踏まないというギリギリの毎日。


 立ちっぱなしというのも最初は筋肉痛だったし、とにかく段取りを覚えるので精一杯。夕方に仕事が終わってお店を出ると、お盆を持っていた左腕とか両足がプルプル震えていたなんてこともあったよ。


「大丈夫大丈夫」


 本当に菜都実さんたちのお役に立てているんだろうか。お店の評判を落としてしまうのではないかと落ち込む私に、菜都実さんはいつも笑顔で接してくれた。




「結花、ちょっと来てごらん?」


 そんなある夜のこと、お母さんに呼ばれてダイニングに行ってみると、その光景に一瞬唖然としてしまう。


 大小のお皿やコップなどの食器がテーブルに広げてあるんだもの。


「こういうお皿とかは、重ねる順番のコツがあるのよ。結花には教えていなかったわね」


 驚く私を前に、お母さんは昔の技を披露してくれた。お盆の持ち方を少し変えるだけで安定すること。いくつものお料理を一度に危なげなく運ぶ技も教えてくれた。


 きっと、菜都実さんが話してくれたのだと思う。


 そんな秘密の特訓を繰り返すうちに、少しずつ余裕も出てきたし、菜都実さんも段階ごとにレベルの高い仕事を教えてくれた。


 慣れて気持ちに余裕が出来ると、今度は別の方にも気が回るようになる。いつも来てくれる常連さんにもいくつかパターンがあって、毎日日替わりという人や、いくつかのメニューをローテーションする人などが顔と一致してくると、注文を取る時にも「日替わりでよろしいですか?」などとと聞ける。


 するとお客さんの方も私のネームプレートを見て「そう結花ちゃん。いつものね!」と返してくれるようになって、緊張する必要がなくなった。


 菜都実さんも、私が常連さんの顔を覚えてきたことが分かると、客席まわりをほとんど任せてくれるようになった。


 それが嬉しくて、今ではランチの一番忙しい時間も基本は一人で店内を任せてもらえるようになった。菜都実さんは保紀さんの厨房のヘルプやレジ、テイクアウトの対応に回ってもらっている。


 冬場は外で順番待ちをしてくれている人に申し訳なくて、近所の百円ショップで膝掛けと籠を買ってきて、自由に使ってもらった。


 さり気ないことだったけど、菜都実さんたちからはお客さんの数がぐっと増えたと教えてもらった。


「結花ちゃんのことを聞いてくる人が多いのよ。あの可愛い子は誰だって」


「えぇ? そんなことを聞いてくる人もいるんですか?」


「そうよ。結花ちゃんのシフトを聞いてくる人だっているんだから。やっぱり結花ちゃんはモテるんだなぁ。あたしの目に狂いはなかった」


「そ、そんなこと一度も言われたことありません!」


「もったいない。同世代はみんな見る目がないなぁ」


 いつものように豪快に笑って、でもちゃんと分かってくれている。失礼の無いようにお断りしてくれているのだそう。


 本当に、そんな経験は今まで一度もなかったんだよ……。


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