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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第二十二章 花火大会の涙
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七十五話 週末お部屋デートの口実です!


 先生に手を引かれて防波堤の階段を上がる。昼間とは全く違って真っ暗な海が広がる海岸。


 堤防から波打ち際までの砂浜には、すでに思い思いの場所に場所を確保して座っている見物のお客さんが大勢いた。


「原田、こっちだ。足元に気を付けてな」


「え? はい」


 先生に呼ばれる方に足をすすめると、防波堤の上に、あの大洗の水族館で使ったレジャーシートが敷かれて、飛ばされないようにペットボトルで重しがしてある。


「今日の結花は浴衣だと聞いたからな。ここの方がいいだろう。昼間のうちに菜都実さんに聞いて場所取りしておいた」


 そんなに気合を入れなくてもいいのに。


 でも、私のために頑張ってくれたんだよね……。


「ありがとうございます。それなのに遅くなってしまって」


「慣れない準備に時間かかったんだろ? よく似合ってる」


 そう言う先生の顔が赤い。


 あの教室の中、教壇と机で向かい合っていた時代には絶対に見ることが出来なかった先生の表情。


「今日も、午前中にありがとうな」


 あの大掃除の日の一件以降、私は週に一回、先生のお部屋で洗濯とおかず作りを続けていた。


 今日は午前中にそれを終えて一度解散。お昼過ぎから家で浴衣の準備をしたから、ずいぶん充実した日になった。


「いいんです。先生の部屋のお掃除で役に立てれば嬉しいですし、お部屋に行く口実にもなります。私の両親も菜都実さんたちも公認です」


 恥ずかしさを隠すために、綿あめにかじりついてみたけど、先生から見たらそれも可愛い仕草と見られてしまうんだろうな。


 本部会場の周囲が暗くなって、海の上から花火が打ち上げられる。会場から遠いから、ここまでアナウンスなどは聞こえてこないけれど、私にとってそんなことはどうでもいい。


 今日は海にほとんど波がなくて、水面に反射して光のお祭りが一層賑やかに映える。


「原田、……ありがとうな」


「えっ?」


 打ち上げ花火の間合いの瞬間、突然先生が私の手を握った。


「俺が今の仕事で上手くいっているのは、間違いなく原田のおかげだ。おまえに出会わなかったら、俺はもっと平凡に、こんなに年甲斐も無くときめいたりはしなかっただろう」


 先生の役に立てたなんて、これまで考えたことがなかったよ。


「私がいて大変なことばかりでしたよ?」


 教室内で孤立していた私は厄介な生徒として先生の足を引っ張っていただけだと思っていたから。


「ずっと考えていたんだ。もし、あのまま原田が無事に高校を卒業したとして、俺はその後に自分の心に今ほど正直になれたか。言い換えれば、原田に告白するなんてことをできたか自信が無い。手が届かなくなった楓とおまえのことをいつまでも引きずる、どうしょうもないダメ男になっていた気がする」


「私も、あのまますぐに復帰していたら、あんな手紙は書かなかったと思います。運命っていつ変わるか分からない物なんですね」


「本当だな」


 もともとこのあたりに街路灯は少ない。


 先生の腕に抱きよせられて、すぐ横を見ると大好きな顔。


 私も目を閉じてせがむ。


 最初は緊張もしていたけれど、今は安心して唇を預けられるようになっていた。


 今はこれだけでも十分幸せなんだよ。


 このまま進めば、先日の先生のお母さまの誤解と同じような外野の勝手な意見など、いろんな大人への階段があるんだろう。


 でもこの人と一緒にいれば恐くない。そう思った。


「先生……、こんな私のことを好きになってくれて、ありがとう……」


 スターマインが次々に打ち上げられて、連続で音が響いてくる。


 全部の言葉が出終わる前に、私の唇は再び塞がれてしまった。


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