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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第二十一章 一生をかけたお願い…
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七十話 全て私のせいです…


 ドアを開けて、お袋の姿が見えたとき、驚いたと同時に正直呆れた。


「お袋……」


 話では来るのは夕方だったはずだ。だからそれまでには結花を帰す予定だったのに。


 今日ここに来る理由は見当がついていたから。


「部屋の片づけご苦労さんね」


 お袋は部屋に上がってくる。そこには結花がいるはずだ。


「あなたが陽人の新しい彼女さん?」


 お袋が結花を睨みつける。そんな顔をしては結花は何も言い返せない。


「はい。いつも先生にはお世話になっています」


 さすが学級委員まで務め、先日の模擬挙式までこなした結花の度胸には感心するばかりだ。


 声の緊張はあるものの、世間的に失礼な態度にはならない。


 いや、いまはそこに感心している場合じゃない。


 俺はお袋と結花の間に入った。


「結花、あとは俺がやる。朝からありがとうな」


「陽人、せっかくなので、この方にもきちんと言っておきましょう」


「お袋!」


「はい。お伺いさせてください」


 しかし、結花は分かったというように頷いた。



 三人で、今朝から片付けた部屋に座る。結花が手伝ってくれなければ絶対に間に合わなかったはずだ。


「陽人、あなたは何をやっているんです? お見合いの話を断ったかと思えば、随分と若い子を連れ込んで。しかも学校教師という仕事まで辞めてしまったと。一体何がどうなっているのかしら?」


 俺に向けての言葉なのだが、結花が俯いてしまう。


「私の……せいです」


「結花!」


 俺が止めようと思った瞬間、お袋は結花の頬を手のひらで叩いた。


 パチーンと乾いた音が部屋に響く。


「お袋!!」


 結花は赤くなった頬を抑えて、唇を噛みしめている。


「あなたのせいで、陽人の人生は無茶苦茶になったのよ。せっかく楓さんから吹っ切れてきたというのに。こんな若い子に引っかかって。どうせ、生徒という立場で色仕掛けでもしたんでしょう? なんてはしたない!」


 その場では何も言い返さない結花。あいつは経験から分かっているんだ。頭に血が上っている状態の相手に反論したところで無駄だと。


 全部吐き出させる。お互いの言い分を聞いた上で結論を出せというのが、教育の場のいざこざでもよく使われる手だ。


「陽人のこの先をどうやって責任取ってくれるのかしら? 聞いたところでは高校も中退したとの話じゃない。陽人の相手にはとても似つかわしくない……」


「いい加減にしろ!」


 俺はとうとう我慢できなくなってお袋の言葉を遮った。


「陽人は黙ってなさい」


「黙るのはそっちだ。さっきから結花のことを言いたい放題言いやがって」


 いくらなんでも言い過ぎだ。高校中退の理由や経緯も知らないで。


「先生やめて……」


 結花が俺を押さえようとする。いつもなら言うとおりにするだろう。


 しかし今日の俺は違う。相手が自分の親だとしても、この場は結花を守らなくちゃいけない。


「結花、こういうことはきちんと言わなきゃならないんだ」


 それでも、結花の一言のおかげで俺の頭の中に一瞬の時間ができて、次の言葉が変わった。


「そりゃ、学校としては教師を辞めた。だけど、その理由は結花にはない。俺が自分で辞めたんだ。結花を卒業させられなかったのは俺の責任だから。だから結花が中卒なのも俺のせいだ!」


 本当はこんなに簡単な話じゃない。でも、いまそれを詳しく話している時間は無い。


「教師と生徒という関係は、こいつはちゃんと分かってた。お袋にも言ったとおり、結花にはその関係が切れた後に俺から交際を申し込んだ。結花には何もやましいところはない。それでも結花と別れさせるなら、俺はもう実家と縁を切る」


「先生……」


 今にも泣きそうな顔の結花。もう安心させてやらなくちゃいけない。


「お袋、俺は時期が来たらこの結花と結婚する。それは俺が自分で選んだ事だ」


「それは、この子への償いという意味?」


「違う! 俺は結花に会って、結花を知って、ずっとそばにいたいと俺から思った。そして、こいつは俺を楓との過去から解放してくれた、たった一人の女だからだ。だから他に替えることはできない。今度こそ俺は結花を幸せにする。これが楓にも報告した俺の答えだ」


 俺は一気に言い切って息をついた。


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