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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第二十章 お土産は指輪ひとつだけ
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六十五話 返事のない朝の部屋


 翌朝、隣の部屋につながるドアをノックしても返事がない。


 前日の事もあったから、疲れてまだ寝ているのかと思ってドアを開けてみたけれど、そこに原田の姿はなかった。


「原田? 結花⁉」


 シャワーを浴びているかとも思ったが、トイレも電気が消えているし、バスルームも扉が開いている。


 俺の背中を冷たい物が流れた。


 このホテルで彼女が行方不明になるのは初めてじゃない。


 でも当時とは明らかに状況が違う。


 昨日の模擬挙式での結花は、きっと誰も見たことがないほど凛としていて、一言で表せば「かっこいい」と思ったほどであったから、自信がないというものではないだろう。



 部屋の窓際にはハンガーにかかった二着のワンピースが下がっている。


 今日、帰りに着ると言っていた一着もハンガーに用意されている。


 相変わらずの手早さだ。


 昨日着ていた物もすでに洗濯とアイロンがけが終わっていてキャリーケースに入れるだけに畳まれていた。


 相変わらずの家事スキルだが、あの時間からいつの間に終わらせたのか。



 それよりも気になったのが、いつも整理整頓が得意な彼女にしては珍しく床に広げたままになっているキャリーケースと、ベッドの上に広げたままの下着だった。


 肌が弱いことを主な理由に、外出するときの結花の服装であまり薄手の服はない。必然的に透けてしまうこともなかったし、高校の制服でも女子はベストがあった。


 男女共学のクラス編成だったにも関わらず、夏場になると下着が透けて見えたり、スカートをまくり上げたりブラウスのボタンを外して、それこそ目のやり場に困るような奴も毎年必ずいた。彼女はどんなに暑くても絶対にそれはなかった。


 それだけに、初めて見る彼女の下着というのは新鮮だった。


 自然体なだけに、ティーンズ雑誌のモデルに登場するような流行りの体型ではないかもしれない。


 それでもやはり年頃の十八歳の少女なのだ。シンプルなレースとリボンがあしらわれたそれらを身に付けている彼女を想像してしまう。


「アホ、そんなこと考えてる場合じゃない。どこに行ったんだ」


 誰が入ってくるわけでもないのに、その洗濯物にバスタオルをかけて視界から消す。


 こんな散らかした状態で消えてしまうというのは、何か緊急事態が起きたのか、事件にでも巻き込まれたのか……。


 パニックになった頭では、自然に思考はマイナスの方に引きずられて行ってしまう。



 ふと、テーブルの上にアイロンがないことに気づいた。そして、そこに小さなメモ書きが置いてある。



『おはようございます。アイロンを返した後に海岸をお散歩してきます。朝ご飯までには戻りますね』



 間違いなく見慣れた字だった。


 もう当時の生徒たちの癖字は忘れてしまっているが、この文字だけはことあるごとに見ているし、そうでなくても忘れられるわけもない。


 急に疲れがどっと出て、俺は彼女が使っていたベッドの縁にへたり込む。


「おいおい心臓に悪いぜ。いなくならないって昨日約束したばかりじゃねぇか。頼むよ……」


 そう言えば修学旅行の時もそうだったし、今回も初日に「朝の時間は海を見に行くかもしれない」と言っていたっけ。


 俺も簡単に支度を済ませ、エレベーターを目指し部屋を飛び出した。


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