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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第十九章 大真面目な結婚式ごっこ
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六十三話 女の子はごっこ遊びは得意です


「原田さん、着替えましょうか」


「これって……」


 お部屋の中に用意されていたのは、純白のウェディングドレス。


 昨日は試着もできると聞いていたし、ホールにも何着か展示されていたけれど、これは違う。


 私を待っていたよう……。


「今期の新作のうちの一着です。原田さんに絶対合うからと本店に無理言っちゃいました」


 水谷さんが笑っている。ドレスは昨日の私の姿を見てフェア用とは別に選んで、まだお店にも出していないものを午前中に入れてもらったって。


「お化粧してくればよかったですね」


「いいえ、実際の皆さんもノーメイクで来ていただくんです。今日もお化粧はメイクさんが行いますよ」


「水谷さん、髪も綺麗で長さも十分ありますから全部地毛で行きましょう」


 スタイリストさんが私の髪を手に取って即決した。


「もちろん!」


 自分の服を脱いで、言われたとおりにドレスに腕を通していく。


 あの長いドレスを写真のようにきれいに広げて見せるには、中にもいろいろと身につけなければならないことも知ることができて面白かったよ。


 着替えが終わると、ヘアメイクと同時にお化粧も施してもらう。肌が弱い話をしたら、下地のクリームを変えてくれて、その上から色を載せてくれた。


「出来た。色白だし、目もパッチリしてるし、髪も長いから本当にモデルさんみたいです」


 水谷さんが興奮しながら姿見を私の前に移動してくれた。


「こ、これ……、本当に私ですか?」


 鏡の中の姿が自分だなんて信じられない。


 純白のドレスを着てアップにした髪の毛にシルバーのティアラを載せている。


 本当に絵本に出てきそうなお姫様だ。


「予想以上です! さぁ、新郎役がお待ちかねですよ」


 部屋を出て、チャペルの扉の前に連れてこられる。



「おまえ……、原田……か?」


 目を丸くしている先生。シルバーグレーの衣装がよく似合ってさすがだと思った。


「は、はぃ……。自分でもびっくりの大変身ですよ」


 このまま模擬挙式に入りたいと水谷さんがお願いしてくる。


「いいんですか? 神様のバチ当たりませんか?」


「大丈夫ですよ。他のゲストさんも参列されていますが、お二人のことは私たちがお願いしたモデルさんとしか紹介していませんから安心してください」


 一度扉を閉めて準備をすると二人きりになった。


 横の通路から人の声がする。ホテルのあちこちに「先着で模擬挙式に参列できる」とも書いてあったっけ。


 そこに自分たちが新郎新婦役で出ることになるなんて。


「今日の原田は度胸あるな。いつもとは真逆だ」


「女の子は小さい頃からごっこ遊びをやります。これも大まじめな『結婚式ごっこ』です。大丈夫です。一緒についてきてください」


 私が先生の手を握る。


 腕の形は先生が私を導いてくれているように組み直した。


「では開けますよ。原田さんいい顔してる。小島先生は笑顔でお願いしますね」


 水谷さんが私のヴェールを下ろしてくれた。


 さっきとは違う、本番用の灯りにされたチャペルには聖歌隊と神父さまが立っている。


 一直線に続く真紅のバージンロード。


「あそこまでお二人でお願いしますね」


 水谷さんが耳打ちしてくれた。


「分かりました。先生行きますよ」


 自分で『ごっこ』とは言ったけれど、ゲストさんは写真を撮ってくるし、本物のチャペルを使うなんてドラマの撮影じゃないのだから。


 ヴェールアップをして十字架の前で神父さまが読み上げる誓いの言葉に返事をするとき、思わず涙が出そうになった。


 これが本物ならいいのに。


 神様、本番でこの言葉を言うとき、隣にいるのがこの人でありますように……。


 チャペルから退場して、正面での写真撮影もしてくれた。フェアに参加していたゲストさんが出た後に、再びチャペルの中でいっぱい撮ってくれた。


「お二人ともお見事です。とても『模擬』ではなかったです。素敵でしたよ」


「女性の方がこういうのは強いですね」


 水谷さんと先生がウェイテングルームで話しているとき、私服に戻してもらった私が入っていく。


「完璧な花嫁さんでしたよ。ゲストの方も満足いただいたようですし、うちのスタッフからも『どこで今日のお二人を頼んだのか』と質問攻めでしたよ」


 水谷さん、私たちがこのホテルに宿泊することが分かってから、ずっと計画していたって。


「昨日ファーストキスをして、今日は本物のドレスを着て模擬挙式をやるなんて思っていませんでした」


「本当に⁉ すごい!」


「修学旅行中では今日のあそこに立つわけにはいきませんよね」


「そんなご夫婦見てみたいです!」


 みんなで大笑いして、『本番』もここでやらせてもらえるように頑張ると話した。


「お二人は明日発ってしまうんですね。お写真は明日のご出発までにフロントに届けておきますのでお土産にされてください。本当にご協力ありがとうございました」


「楽しかったです。こちらこそありがとうございました」


 あんな素敵な体験をさせてもらって、おまけに謝礼までいただいて、私たちはチャペルを後にした。


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