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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第十三章 私は先生を傷つけていたの…
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四十二話 水族館は私の場所なんです…


 ここ、茨城県の大洗にある水族館の訪問は初めて。


 先生が今日の行き先に選んでくれた理由は、イルカたちのステージが屋根付きなどの屋外ではなく、完全に屋内であるということ。


「鴨川と迷ったんだが、最後には天気で決めた」


 道中で今週そんなふうに悩んだ裏側を明かしてくれっけ。


 私が小さい頃からイルカやラッコなど水棲動物が好きだと言うことや、水族館巡りが好きだとは高校時代にプロフィールに書いたきりだったかも知れない。


 子どもっぽいかと思い直してその後は表には出さないでいたのに、ずっと覚えていてくれたんだよね。



 高校二年の修学旅行の自由行動の日も私は一人誰とも組まずに終日水族館にいると予定表を提出したくらい。


 そのイルカショーの時間を確認して、その時間まで他の水槽の前を歩く。


「本当に原田は水族館が好きなんだな」


「分かっちゃいます?」


「顔を見れば分かる。童心に帰っているというか、危ないくらい無防備になってると言うか……」


「それ、私がよっぽど精神的に幼いってことじゃないですか?」


 どうしてだろう。今日は何度も顔を見合わせて笑いあえる。やっぱり二人きりだからなのかな。それとも水族館という場所を選んでくれた嬉しさからかもしれない。


 昔からだ。高校よりも前からずっと。


 いじめられて一人ぼっちだったときも、この青い光に囲まれた空間で魚たちを見ていると、固まっていた心が解れていく。



 そんなときの私は間違いなく無防備だと思う。



 時間になって、約束していたイルカショーのホールに入ると、もう少し早く来ればと後悔した。


 前方席しか席が空いていない。つまり「お約束ゾーン」になってしまう。


「どうしましょう。後ろの方で立って見ますか?」


「まぁいいじゃないか。その時はそのときだ」


 私の心配をよそに先生は笑ってくれた。


 水よけにと売っていたレジャーシートを買って、二人で身を寄せる。こんなにぴたりと体を寄せるなんて、学生時代には絶対にできなかったことだよ。


「先生、濡れそうなときは使ってくださいね。私、こういうのは慣れてますから」


「本気かよ?」


 実際に、顔や頭が濡れるくらいなら何度も経験しているし、小学校の頃に遠足でわざと全身ずぶ濡れにしてもらったこともある。


 みんなから変な奴だと揶揄されても、幼い頃からの経験で、それも水族館ならではの楽しみの一つだと思っていたから。


『前の方は注意していてくださいね~!』


 最初のうちは、それでも飛沫だったし、それも本当に最前列くらいまでだ。


 でも、これで油断しちゃいけない。大技は後半、ラストに持ってくる……。


 私はこのステージに登場している動物たちを見る。一番大きなあの子が飛んだらここも危ないなという想像はついた。


「先生、来ますよ」


「マジか?」


 初めての場所だったけど、あちこちの水族館を見て回った経験から、天井から吊されるボールの高さを見て見当がつく。


 やっぱりだ。あの高さまでジャンプして、そのままダイブすれば、ここまで十分に水が来る!


「先生、伏せて!」


 私は急いでレジャーシートをできるだけ先生に被せる。


 次の瞬間、プールの中で一番大きなオキゴンドウが水面からターゲットめがけて跳び上がった……。


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