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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第十二章 あれは夢じゃなかった!
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三十九話 あの日から変わっていません。


「原田……、教えてほしい……」


「は、はい……」


 先生の様子がいつもと違う。


 あの教室のときからだけど、私が知っている限り、こんなに不安そうな顔をしているのは始めて見た。


「俺は去年、原田の気持ちを傷つけてしまった。本当に申し訳なかった」


「ううん、そんなことありません。分かり切っていたことなんです。先生と私はそういう関係だったんです。当然のお答えだって自分で渡す前から理解していましたから」


 あのときは必死に涙をこらえたけど、それは嘘じゃない。


 許されることのない想いは振られることが必然だったんだもの。


「昨日、俺は原田の気持ちを聞いてしまった。……あれは当時の夢か原田が俺の妄想によるそら耳だったのか、それとも……今の原田の中の気持ちなんだろうか。俺はそれが聞きたい」


「先生……」



 鼓動が激しくなって顔が赤くなる。


 覚えている。



 先生が好きだと、一緒にいたいと言った。



 あれは夢じゃなかったんだ。そして先生に聞こえていたんだ。



 言葉に出すのが怖い。


 もし、ここで答えを言ったら、偶然にも店員とお客さんという立場で再会した私たちのこれからが消えてしまうかも知れない。


 でも、ここで何も言わない方が、今度は私に後悔を残してしまうかもしれない。




「先生……」



 五分くらいかも知れない。私はギュッとつぶっていた目を開ける。


 私の正面に先生が身動きせずに正座で待っていてくれた。



「今……()です。私の気持ちはあの時から何も変わっていません」



 お店で会っていれば、いつかは分かってしまうことだ。


 それに、もう立場的にも隠す必要はない。


 これで再び振られても仕方ないと覚悟を決めて伝えた。


「そうか、分かった」


 本当に無茶苦茶なことを言ったはずなのに、先生は逆にスッキリした顔で優しく頷いてくれた。



「原田、今週の土曜日は予定あるか?」


 壁に下げられているカレンダーのその日に何も印が付いていないことを確かめながら聞いてくる先生。


「いいえ、特に何も予定はありません」


 その日は特に私の予定もなかったから、お昼の時間だけ菜都実さんのお店でお仕事だ。


 菜都実さんは用事が入った時は遠慮なく休んでいいよと言ってくれる。


「じゃあ、久しぶりにドライブにでも行くか?」


「い、いいんですか?」


「どうする? 車酔いするというなら別に考えるぞ」


「大丈夫です! 先生の運転で酔ったことありませんよ?」



 でも、今回は学校の修学旅行の時とは全然意味が違うと瞬時に感じる。


「俺の人生の中で、こんなことをするのは初めてだ」


 先生からスマートフォンを取り出して、お互いの連絡先を交換した。


 そうだよね。プレゼントすら受け取らないのだから、個人の連絡先を知った生徒はこれまでいなかったと思う。


「今日はきっと寝られません……」


 帰り際、門の外まで出て、いつもと同じように見送ることにした。


「でも俺はまだ答えを言ってないだろ」


「いいんです。私、自分の言葉で言うことが出来たんです。それだけでも、私にとってはものすごい進歩です」


「そうだよな。また熱出すなよ? 土曜日は俺も楽しみにしてる」


「はいっ!」


 その代わり、先生は金曜日まで残りの三日間はお店に来られないと言った。


 少し残念だけど、それに深く追求するつもりはなかった。先生も大人で社会人だもの。いろいろと事情があっても不思議じゃない。


 その日、最後に画面に表示されたのは、先生からの「おやすみなさい」だった。


 私は同じ言葉をすぐに送信して、その名前と言葉が表紙された画面を抱きしめながら再びお布団に入って眠りについた。


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