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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第七章 誰にも言えない予定
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二十一話 クリスマスイブに宿題は出さない!


 一日の授業の終わりを告げるチャイムがスピーカーから流れる。


「もう、今日は何を言っても勉強どころじゃないだろうな。今週末は宿題を出さないから、今夜と元日だけはしっかり遊んでこい!」


「さすが小島先生分かってる!」


 教室の生徒たちがこの後の予定で頭がいっぱいなのは分かりきっている。こんなところに宿題を出したところで、今夜はきっと遊ぶ子は遊ぶだろう。宿題のせいで寝不足になって授業中に寝られる方が困ってしまう。


「いいか、俺からは今夜の宿題を出さないから、その分の時間は自由にしていいし、外出して楽しむも家でゆっくり過ごすも各自の自由だ。恋人の家で過ごそうが俺は何も言わない。堂々と行ってこい。もちろん高校生なんだから常識の範囲で頼むぞ? そのかわり今日の分を冬休みの課題に上乗せしなきゃならないから、そこは覚悟しておいてくれな」


「えー、先生、それはないっすよ!」


 生徒たちの不満の声を後にして、俺は教室を後にした。



「小島先生、今夜の予定はいかがですか? みんなで少し早い忘年会とでもって話が上がってるんですが」


 浮わついているのはなにも学生だけじゃない。


 よりによって今日は金曜日であり、おまけにクリスマスイブという条件がそろっている。テレビでもさんざんこの話題で盛り上がっているから、学生らしく勉強していろと言うことも野暮だと思うし、職員室の会話がこれでは彼らに説得力もあったものじゃない。


 忘年会と言えばもっともらしく聞こえるけれど、要はこの日に予定がない独身教師が集まって、日頃の憂さ晴らしをしながら酒を飲むという。


 そしてあわよくば……。そんなチャンスを狙っての集まりだ。教職と言ってもそこは生徒たちと変わらない人間なのだから。


 自分たちを棚に上げて生徒たちに宿題を出すなんてことは、この仕事に就いた最初の年から避けてきた。


 だからこそ心のなかでは、生徒にあれだけのことを言っておきながら……、とため息が出てしまう。


「せっかくのお誘いなのにすみません。今夜は学生時代の連中と先約が入ってしまっていまして」


「面白そうですね。男女混合ですか?」


 おいおい、ある意味問題発言だぞ? でも無粋に答えるわけにもいかないから……、


「残念ながら今回はこんな日に寂しい男連中ばっかりです。学生のうちから付き合っている連中は来ることないでしょうしね」


「あーあ残念。小島先生も本気で探せばいい方見つかりそうなのに」


 やっぱりな。そう言うコメントが出るってことは、目的はバレバレじゃないか。


「僕にはまだそれだけの資格はありませんよ。まだ大学生に毛が生えたくらいでしかありませんから。どうぞ皆さんで楽しまれてきてください」


 早く行ってやらなければ。


 残念ながら、今日の俺はこんな会話に構っている余裕などない。


 今日は大切な誰にも言うことができない約束をした日。


 もともと予定なんてものはなかったけれど、最高重要度のそれがつい先日決まったというのは嘘ではないからだ。


「それではお先に失礼します」


 これ以上職員室の話題に付き合っている時間は無駄だ。机の横に置いてあった鞄を素早く取り上げると、俺は職員室を抜け出した。


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