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あなたのやり方で抱きしめて!【改稿版】  作者: 小林汐希
第一章 高校を中退した私…
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二話 卒業できなかった私…


 そう言えば私の自己紹介をしていなかったよね。


 原田(はらだ)結花(ゆか)、十八歳。本当なら今年の春に高校を卒業……するはずだった……。


 三月二十五日生まれの私だから教室の中で歳を取るのはいつも最後。そんな十六歳も後半になった高校二年の冬、私は入院を余儀なくされた。


 いつも通うクリニックの先生から突然紹介状を渡されて、言われるがまま病院で受けた精密検査で片方の卵巣に初期の病巣が見つかり、摘出手術も受けた。


 怪我をしたわけではないし、自己症状も全然なかった。


 風邪を引いたと思って、いつもどおりの診察を受けたとき、市民病院へと言われて紹介状を持たされたことに面食らってしまったほど。


 まさかと思ったけれど、でも当たっていた。その病名を聞けば、私だけじゃなく周囲も動揺すると思う。


 執刀を担当してくれた市民病院の先生からも、「こんなにごく初期でよく見つけてもらえた」と驚いていたほどだったよ。


 退院後は定期的に検査をすることと、しばらくの間はホルモンバランスの関係で体調管理を最優先にしましょうと最初に言われて、十分に気を付けてはいたのだけれど。




 そう思っていても、予想以上に私の身体は疲弊していたみたい。なかなか体力が戻らず、検査結果も好転しなくて、入院が予定より長引いた。


 最初の頃はクラスの子たちもお見舞いに来てくれた。


 病名と治療期間の見通しが立たないこともあって、長かった髪も思い切って手術前にショートカットまでバッサリ切った。どうせ投薬治療が始まれば抜けてしまうのだからと……。


 ベッドで点滴投薬を受けながら、そんな姿を変えた私を見て、みんな表面上では元気づけてくれたけれど、内心はどうだったのだろう……。



 約二ヵ月の入院が過ぎて、一度は試験登校もした。でも、その間に私を取り巻く環境は大きく変わってしまった。


 ただでさえ噂から話が広まりやすい年頃。そして、「来年は自分たち」という大学受験のことを周りから事あることに言われる中で、必然的に発生するプレッシャーから逃げるための話題も欲しかったのだと思う。


 そんな時期に病院のベッドで安静にしていなければならない私こそ、本当に自分でも歯がゆかったし、どうすればいいのか分からなくなっていたっけ。




 でも周囲からすれば、病名からイメージするような大きい手術跡もない私は休んでいるようにしか見えなかったのだろうね。


 彼らのフラストレーションは私というはけ口に向けられたようだった。


「原田結花と一緒にいると病気が伝染す(うつ)る」


 そんな話がどこからか伝わりだした。


 医学的にも普段の生活くらいでは絶対にそんなことはないのだけれどね……。現実を一時忘れられるようなゴシップのネタにもなる話題はあっという間に学年中、いや校内中に広まっていた。


 高校二年から三年にかけて、クラス替えもあったけれど、すでにその話題は反論しようがないくらいに広まっていて、クラスが変わっても私を見る目は学校のどこに行っても変わらなかった。



 四月。新学期の教室で、通学許可がようやく降りて復学した私は()()だった。


 それだけじゃない。あからさまに何か汚いものを見ている。早くどこかへ消えることを望む無言の視線を常に感じていたよ。


 そんな精神状態では、元気を取り戻すことに望みは持てなかった。受験だって……、とても乗り越えられると思えなくなっていたんだ……。


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