咲かなかった種
咲かなかった種についてのお話しの種。
花の種は、土の中で悩んでいた。
どうせいつかは枯れてしまうのに、
どうして芽を出さなきゃならないんだろう。
意味なんかないのに。
花の種は、周りを想像した。
そこは一面の野原で、綺麗な空が広がっている。
こんなところで咲いても、なんの意味があるんだろう。
どうせだれにも誉めてもらえないのに・・・。
花の種は、怖くなって土の奥に身を縮こめた。
すると、隣の種が、鳥に食べられた。
誰かに取られるかも知れないのに、
どうして種を残すんだろう。
春が来て、花の種は芽を出さなかった。
夏が来て、秋が来て、そして冬が来た。
花の種は、もう芽が出せなくなっていた。
花の種は後悔した。
どうせ同じく枯れるなら、
少しでも芽を出しておけば良かった。
もしかしたら、知らない世界に出会えたかもしれない。
少しでも咲いていたらよかった。
もしかしたら、誰かが通っていたかもしれない。
少しでも種を残せれば良かった。
もしかしたら、自分の種が次に咲く時に、
誰かの心を癒すかもしれない。
種は静かに朽ちた。
春。その横で、花が咲いた。




