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花売り娘と冒険者たち①

思いつきで書いたので削除するかもです。

 それは夏も近い春の終わりだというのに肌寒いある夕暮れのこと。


「う~~っ、寒ぃ。こんな日は温かいココアでも飲みたいっすね、ジェシー兄貴」

「ばーか、こういう日は酒だろう。いつまでたってもガキだなぁ、ブルーノ」

「酒っすか。正直、苦いだけで美味いとは思えないんですけど……ああ、ジルが蜂蜜で割ってくれた葡萄酒は甘くて美味かったですね」

「お酒の味がわからないとは、お子ちゃまだねえ、ブルーノ君は」


 一仕事終えたらしいところどころ汚れやかすり傷の目立つ革鎧を着た、十代半ばから後半だと見える若い冒険者ふたり組が央都シレントの商業区域を歩いていた。


 やや年上で青年といってもいい年頃のジェシーと呼ばれた中肉中背、特に目立った特長はないが人の良さそうな笑顔で笑う彼のからかい混じりの言葉に、こちらは十代半ばほどみえる悪餓鬼がそのまま大きくなった風情の少年が唇を尖らせる。


「はぁい。そこのカッコイイお兄さんたち、ちょっと寄って行かない? お兄さんたち好みだからサービスするわよン♪」


 と、不意に街角に立つ扇情的な格好をした娼婦(コールガール)に投げキッスとともに声をかけられ、ブルーノは面喰ってまじまじと彼女を見返した。


 厚化粧でソバカスを誤魔化しているが、声をかけてきた女はブルーノとさして変わらない年だろう。その割に不健康そうに肌に皺ができて、声も煙草で涸れている。

 若干、言葉に訛りがあるところをみると、おそらくは央都の生まれではなくもっと田舎の出身なのだろう。


 おおかた都会に憧れて田舎からでてきた娘が、順調に人生を転落して娼婦(コールガール)に堕ちた……といったところか。ぶっちゃけ、よくある話である。


「ねえ。年下のほうのお兄さんはもしかして帝国の生まれじゃない? やっぱり! アクセントが洒落ているからそうだと思ったわ――って言うか、あたしも元をたどれば帝国の人間だったんだけど。知ってる? 帝国の西の端、むかしむかしにドラゴンの王様に滅ぼされた領主がいて、あたしの両親はその領土の片隅に住んでたんだって。で、命からがら逃げて、こーんなところまで流れ流れて流れ着いたってわけ」


 彼女が語る身の上話に、思わず立ち止まって耳を傾けるブルーノ。

 その様子に脈ありと見込んだのか、娼婦(コールガール)は息巻いて続ける。


「どう? 一晩、大銅貨一枚……ううん、銅貨五十枚でいいわ」


 えらく安いな、というのが咄嗟に浮かんだブルーノの感想だった。同い年くらいの少女が、安い木賃宿に辛うじて泊まれる程度の金額で体を売らなければならない現実。

 大方、その金も女衒(ぜげん)に毟り取られて、手元に残る金なんてほとんどないだろうに……。


 別に彼女を買うつもりはないけれど、ある意味同郷の好である。銅貨五十枚くらいなら世間話で払うくらいは問題ない。

 けど、それはそれで相手の顔に泥を塗ることになりそうだし……どうしたもんかな、と逡巡するブルーノと娼婦(コールガール)の間に割って入るように、ジェシーは慣れた調子で、

「わりいな、お姐さん。俺らこれから仕事なんだわ」

 と、軽い口調で手を振って、ブルーノともどもその場を離れた。


 ひと区画ほど離れたところでブルーノがふと振り返ってみれば、他にも結構な数の街娼が通りかかる男たちに無作為にしなだれかかったり、声をかけているのが見えた。

 このあたりこの時間帯に通りかかったのは今回が初めてだったが、どうやらこのそういう筋の店が多い場所だったらしい。

 

「ああいうのに興味を持つお年頃かい? けど、街娼はロクなもんじゃないからなぁ。――お、そうだ。ここは俺がイイ店に連れて行ってやろうじゃないか」


 兄貴分と慕うジェシーに意味ありげに笑いかけられ、ブルーノはその『いい店』のことを想像して顔を赤らめる。

 興味はあるが、それ以上に背徳感が大きい。


 なによりもしもそういういかがわしい店に行ったことがジルやエレンにバレたら……。


「大丈夫。バレなきゃいいんだって」

 そんなブルーノの逡巡を読み取って、悪魔の笑みを浮かべたジェシーが耳元で囁く。


「そ、そうっすよね、バレなきゃセーフですよね」

「そうそう。バレなきゃ問題ないんだよ」

「「ぐふふふふふふふふふっ」」


 助平そうな顔で肩を振るわせる男子ふたり。


 ◆


 同時刻。ルタンドゥテⅢ号店三階の私室で、最近流行の恋愛小説――市井(しせい)の娘が貴族の御曹司に見初められるが身分の違いから引き裂かれる悲恋――を回し読みしながら、ああだこうだと雑談に花を咲かせる乙女たちの姿があった。


「そもそも、この男が親友の助言を無視したのがことの発端だと思うんですよ」

 と、エレンが主人公の弱腰に憤慨すれば、

「でも、実際に親としてみればこれは反対するんじゃないの? 下手すりゃライバルの侯爵家に揚げ足を取られる材料になるんだし」

 と、即座にジルの護衛役で最近は半分以上、ルタンドゥテのウェイトレスとして働いているエレノアが口を尖らせる。

「しかし、そこらへんをひっくるめてどうにかするのが男の器量だろう。それができずに結局は腹違いの弟の策略にあっさり引っかかるこの男が情けないとしか思えんな。また、そんな情けない、顔と身分が高いだけの男にのぼせ上がったこの娘も相当におめでたいじゃないかね」

 と、現在は護衛隊の副隊長格として、隊長のノーマンにも認められているライカが眉をしかめる。


 みんなこういう話題になると生き生きするなぁ、と感心しながら香茶に口をつけるジル。


「ジル様もそう思いますよね?」

 と、エレンに水を向けられ、ジルは困惑した面持ちで「そうですわね……」と考え込む。


「ほら、ジル様もそうだって言ってますよ」

「そ、そうではありません!」

 鬼の首を取ったように胸を張るエレンの誤解を慌てて訂正する。

「ちょっと考え事をしていただけですので」


「考え事ってなんですか?」

「えーと、まずラナとコッペリアが無事にゼクスの餌やりを終えたかどうかの心配と、なかなか帰ってこないブルーノとジェシーの安全でしょうか」


 エレンの問い掛けに指折り数えるジル。


「山育ちのラナと永久機関内蔵のコッペリアですから大丈夫ですよ。西の山ですから、行って帰ってくるのでも結構掛かると思いますけど、そろそろ帰ってくるんじゃないでしょうか?」


 ふたりに対する全幅の信頼……といえば聞こえがいいですが、なんとなくぽんぽこぽんぽこ盆栽でもする要領で重症患者を治癒するジルの手際を前に、《聖天使城(サンタンジェロ)》で他の聖職者がよく口に出していた、「もう、全部クララ様ひとりでいいんじゃないか」的な投げやりな口調で、エレンがそう言って懸念を払拭する。


 一方、もともと三人で組んで冒険者をしていたエレノアとライカは、慣れた様子で肩をすくめてみせた。

「ジェシーたちならどうせ一仕事終えて、一杯飲もうかとか考えて寄り道しているだけですよ」

「ああ、最近、南方の踊り子の格好で女の子が酌をしえくれる店に入り浸っているらしいからな」

「本人は隠しているつもりみたいですけどね」


 男の隠し事が女の子にバレないと思っているのは男だけであった。


 ◆


「――って、あれってうちのお姫様の侍女ふたりじゃないのか?」


 と、肩を組んで夜の店に繰り出そうとした男二人だったが、その刹那、ジェシーは夕暮れ近い町中に見慣れたメイド服の二人組を見つけてその歩みを止めた。

 『うちの侍女』という言葉に、衝撃のあまり心臓が口から飛び出しそうになるブルーノ。


 後ろめたさ百二十パーセントでジェシーの視線の先を追って見れば、人ごみの中に紛れていてもやたら目立つ、狐の耳と尻尾を持った小柄な侍女と、オレンジ色の髪をしたやたら朗らかな侍女のふたり組の姿が目に飛び込んできた。


 普段は他を圧倒する恒星のように眩い美貌のお姫様(ジル)のそばにいるため、さほど注目を浴びることのないふたりだが、こうして見れば一目瞭然。他とは一線を画す存在感で、決して人ごみに紛れないのがよくわかる。


「……なんだ、ラナとコッペリアか」

 侍女と聞いて一瞬、狼狽えたブルーノであったが、それがこのふたりであったことにほっと安堵の吐息を漏らすのだった。


 と、カクテルパーティ効果だろうか。この人混みの中でも自分の名前を呼ばれたことに気付いたコッペリアが、ブルーノたちのほうを向いた。


「よう」「買い物か?」

 軽く手を挙げて挨拶をするブルーノとジェシー。


「………。…ああ」

 小考したのち、ポンと手を叩くコッペリア。


「――おい、もしかして忘れていたのか!? ルークと一緒にジルを迎えに行った仲だろう!」

 その様子に声を荒げるブルーノ。


「覚えてますよ。エレン先輩の金魚のフンと、その兄貴分でしょう。メモリの無駄なので名前は最初から憶えていませんけど」


 完全に眼中になかったことを隠しもせずに、そう堂々と言い放つコッペリアの袖を引いて、傍らのラナが「ブルーノとジェシーのお兄さんだよ」とフォローする。


「――なるほど。ブルーノとジェシーですか。わかりました、ラナぽん」

「ん」


 案外あっさりと理解を示すコッペリアに、微妙な違和感を覚えるブルーノ。

 そんな相手の反応に頓着することなく、マイペースに会話を進めるコッペリア。


「さきほどの『買い物か』という問いなら違います。いま帰ってきたところです」

「三人でゼクスにご飯あげに行ってきたのー」


 そういって足元にいた翼の生えた仔犬――ジルの使い魔(ファミリア)である〈天狼(シリウス)〉のフィーアを両手で持ち上げてみせるラナ。


「なんだお前もいたのか。――おっす、元気か?」

「わん!」


 ひと声フィーアが吼えた瞬間、

「……なんで地面に伏せてるんだ、お前?」

「ちょっと発作的に匍匐前進がしたくなっただけなので気にしないように……くっ、破壊光線じゃなかった。でも、あれは進化すれば神にも噛み付く〈神滅狼(フェンリル)〉になる可能性があるとワタシの計測機器が訴えていて、実際その萌芽(ほうが)がある以上、油断は禁物」

 なぜか咄嗟に地面に身を投げ出し、ぶつぶつ呟いていいるコッペリアを見下ろすブルーノ。


 通りかかった長い黒髪にドレスの十三歳くらいと思えるやたら豪奢なドレスを着た、ジルに勝るとも劣らぬ美貌の少女が、

「おや? もしかして従魔の擬態? てことは、あの時の子の使い魔(ファミリア)か。――あ痛っ!」

 ラナが抱えるフィーアに細い繊手を出して撫でようとしたが、ガブリと噛まれて慌ててその場から逃げていった。


「フィー、めーっ!」

 そんなフィーアをラナが叱る。


「……ふーん。ゼクスのご飯ってことは、例の餌やりか。冒険者ギルドの噂だと、なんか最近、山の方に異変があるらしいけど、何か変わったことはなかったかい?」


 ジェシーの問いかけに、コッペリアは立ち上がって体に付着した汚れを手でを払いながら、

「いたって平和でしたよ。ワタシたちのほかにも、ワイワイと騒がしくハイキングしている集団もいたくらいですから」

 気楽な口調でそう答える。


 だが油断はできない。この美少女の姿をしたカラクリ人形の感性は、その女主人であるジル同様、ちょっと……かなり頓珍漢で、世間一般から大きく乖離していてことは、短い付き合いでもしっかりと骨身にしみていた。

 そんなわけでジェシーの視線が一緒に同行したであろうラナとフィーアに向けられる。


「おっきな鳥さんがいたねー。あと、ジル様のお弁当美味しかった~」

「わんっ!」


 屈託ない笑顔でラナとフィーアも唱和したところをみると、長閑(のどか)な餌やりだったというのは事実なのだろう。


 時は春、日は夕暮れ、夕餉(ゆうげ)の煙立ち上り、仔犬腹を減らし、子供笑う、神は天にあり、世はすべてこともなし……何事もなく平和が一番だ。

 柄にもなく詩的な感慨とともにそうジェシーは判断して、噂が杞憂に終わったことにほっと胸を撫で下ろすのだった。


 もっとも、後日、このふたりが定期的に餌やりに訪れる山が『魔の山』と呼ばれ、恐れ戦かれることになったのを人づてに聞いて、「噂なんてアテにならないものですわね」と、ジルが苦笑したのはまた別の話である。


 閑話休題(それはさておき)


「んで、そっちは何をしていたわけ? このあたりは一本道を入ると遊郭とか飲屋とかその手の店が多いけど、もしかして――」


 なぜかこんな時に限って察しの良さを見せるコッペリア。


「な、なにもしてないぞ! ちょうど外から帰ってきたところだし」


 途端、上ずった声で必死に否定するブルーノのあからさま過ぎる態度に、ジェシーがあちゃあという顔をして片手で顔を押さえる。

 実際、まだ何もしていないのだが、これではやましいことがありましたと自白しているようなものだ。


 案の定、「へー、ほー」と、コッペリアから生暖かい視線を向けられる。

「……まあいいですけどね。生殖行動をするのは生物の本能ですし、ワタシの関与することではないですから」


 人造人間(オートマトン)なせいなのか、あるいは錬金術師の助手として生き物を扱うことに長けているからなのかはわからないが、案外さっぱりした反応にブルーノとジェシーふたりともほっとした顔で肩の力を抜く。


「あ、あの、いちおうブルーノの代わりに弁明しておくと、本当にまだなにもしてない、ちょっと飲みに行こうとしていただけで、やましいことはないからな。だから、ジル……ジル様とか、エレノアとか、他の連中には」

「別に言いませんよ。興味ないですし。それに仮にクララ様が知ったとしても、きっと気にしないで、慈しみの視線を向けてくれると思いますよ」


 ありそうだし、それはそれで嫌だなァと思うブルーノとジェシーであった。


「ねえねえ、コッペちゃん。せいしょくこうどうってなあに?」

「具体的に言うと男性の下半身「「いいから教えるなっ!!」」」


 無垢な瞳で問いかけるラナに、生々しい知識を伝授しようとするのを慌てて止めるブルーノとジェシー。

 往来のど真ん中でこんなやり取りをしていれば当然目立つし、柄がいいとはとてもいえない場所なので、難癖をつけられてもしかたない場面だが、逆に目立ちすぎて、

「ママ、あの人たち――」

「しっ! 目を合わせるんじゃありません!」

 周囲は見て見ぬふりをするのだった。


「……こほん。まあいい、ルタンドゥテに帰るんなら一緒に帰らないか? この辺は柄が悪い奴らが多いから、虫除けも兼ねて、な」


 ジェシーの提案に、コッペリアは懐疑的な目をむける。


「えらく親切ですけど、何が目的ですか? ――はっ。まさか、ワタシの熟れた肉体と、ラナぽんの青い果実をもぎ取ろうと」

「「してねーから、安心しろ!」」


 心外だとばかり声を荒げるブルーノとジェシー。


「――きゃっ」

 と、その声に驚いて、通りがかった――他の通行人が遠巻きにしているのに頓着することなく、一同のすぐ傍らを通り過ぎようとしていた――ブルーノと同じくらいか一歳くらい年下の花売り娘だと思える少女が、驚いて腕にぶら下げていた切花の入ったバスケットを地面に落してしまった。

 

 舗装されていないでこぼこの地面に散らばる色とりどりの花々。


「あっ、悪い」

「すまない、すぐに拾うから」

 慌てて腰を屈めるブルーノとジェシー。


「いえ、私もぼーっとしていたのが悪いので……」


 そうアッシュブラウンの髪を三つ編みにした少女がふたりのほうを向いて首を横に振る。

 そのハシバミ色の瞳の視線が微妙に合っていないことに気付いて、ジェシーは眉を曇らせた。


「君、もしかして……」

「ええ、五年前に火事で両方とも」

「「っっっ」」


 その言葉に罪悪感を一層募らせたブルーノが必死に散らばった花を拾い集め、ついでにラナとフィーアも手伝って、風に吹かれて結構広範囲に広がってしまった花を探しては拾う。

 コッペリアだけは、フィーアに噛まれて逃げていった少女の後姿を、「どっかで見たような……?」しきりに首を傾げていつまでも見送っていた。


 四人……三人と一匹で手分けして拾ったが、半分以上は人に踏まれたり、衝撃で折れたり花が散ったりして商品にはならない状態である。


「すまない。急いで集めたつもりだったんだけど……」

「いえ。いいんです。どうせもう今日は遅いので家に帰る予定でしたから。籠に入っていたのは売れ残りの花ばかりですから」


 侘しさをにじませた笑顔を前に、いよいよもって(コッペリア以外の)全員の罪悪感が半端なくなった。


「――あ。そうだ、コッペリア。そーいえばジル様の部屋を飾る花を山で摘んでくるはずだったの忘れてただろう?」

 そこで、思い出したとばかりジェシーが手を叩いた。


「は? 何を言って」

「そうそう! 駄目じゃねえか、肝心の土産を忘れちゃ――なあ?」


 即座にブルーノもその意図を察して三文芝居に乗ってくる。


「いや、クララ様は鉢植えならともかく切花は嫌い」

「う、うん! そうだね。忘れてたよ、ねえ、フィーア!」

「わおんっ!!」


 ラナとフィーアまで空気を読んでそれに合わせる。


「つーことで、残った花は全部俺たちが買う、いや買わせてくれ!」


 ジェシーの勢いに半ば気圧される形で花売り娘は頷く。


「よしっ、じゃあ、これが代金」


 懐からジェシーが大銅貨を数枚取り出したところ、ブルーノも財布を取り出したので、一枚だけ大銅貨を受け取って、有無を言わせず娘の手に握らせた。


「大銅貨?! こ、こんなにはいただけません! せいぜい銅貨五十枚もあれば十分です」


 慌てる娘に、コッペリアが面倒臭そうに、

「こいつらは冒険者とかいうならず者だし、どうせあぶく銭なんだから遠慮なく受け取っておきゃいいのよ」

 そう言い放つ。


 元迷宮の奥深くに住居を定め(クワルツ湖と火炎迷宮)、冒険者に勝手にご近所を荒らされる側の立場だったコッペリアとしては、冒険者という職業にいろいろと思うところがあるのだろう。


 むっとしつつも、目の不自由な娘さんの前で醜く口論する気にもなれず――それに言っていることはあながち間違いでもない――無言を貫くブルーノとジェシー。


 そんな彼らの様子に、いろいろ察っしたのだろう。花売り娘はしばし沈黙をして、それから深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。私はドリス・フリデールといいます。ぜひお名前を聞かせてください」


 一介の花売り娘とは思えないしっかりとした礼儀作法、なにより姓を持っていることに軽く目を見張りながら、

「ああ、俺はジェシー、ジェシー・アランド」

「俺はブルーノ」

「ラナ。で、この子はフィーア!」

「わん♪」

「ふっ、無知蒙昧な町民風情にワタシの崇高な名を」

「この阿呆はコッペリア」

「誰が阿呆か!? この愚民以下の腰巾着が!」

「んだとーっ!」


 そんな一同のやり取りにクスクスとドリスは笑いながら、改めて膝を曲げて礼をする。


「ジェシーさん、ブルーノさん、ラナちゃん、フィーアちゃん、コッペリアさんですね。あらためてお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」


「“さん”ではなくて“様”と呼べ、小娘っ」

 堂々と命令するコッペリアを押さえながら、育ちの良さそうなこの少女がどうしてこんな境遇になったのか、不憫に思うブルーノであった。

書籍作業が難航しているので、本編の再開はもうちょっとお待ちください。

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