友達
「っと、これで終わりよ。」
ターナの足に包帯を巻いていたナツの手が止まった。家に戻ってから、汲んだばかりの冷たい水でターナの足を冷やし、湿布を貼った上から包帯を巻いたところだ。足の手当はこんなものだろう。
「助かりました。本当にありがとうございます。」
ターナは深々と頭を下げた。ナツはそれを見て慌てて止める。
「こういうのはお互い様よ!困ってた人をみて助けないわけないでしょ?それに…年近いじゃないっ。私、ナツ!敬語なんていらないわ。」
ナツはにっこり笑ってターナに手を伸ばす。
「えっと…」
ターナは少し驚いた顔をしてうつむいた。しかしすぐに優しげな笑みを浮かべて「そうですね。」と呟く。
「ターナさん?」
「私はターナといいます。こちらは私の付き人のカグ、どうぞよろしくお願いします。」
ターナは、まっすぐナツに笑顔を向けた。右手は差し出されたナツの手をしっかりと握っている。
「なっ、ターナさん!そんな簡単に人を信じては…」
「カグ、3人でいる時は、私のことを友人としてみてください。私たちは同い年です。たまには、このような時間があっても良いでしょう。…それに、見ず知らずの私たちをなんの見返りも求めずに、助けてくださったナツのことを信じるのは簡単です。」
ターナはカグの方へ振り返り、優しげな声でそう言った後、またまっすぐにナツを見た。
「ターナさんのことを友人だなんて、っそんなこと…」
「そうしてください。私が望んでいるのです。ナツ、私のこの口調のことは気にしないでください。特別敬語を使っているわけではありませんので。」
「わかったわ!カグもよろしくっ」
ナツは、カグにも手を差し出した。カグは「ターナさんがそうおっしゃるなら…」などと呟きながら、右を向いた顔は機嫌が悪そうに手をそっと握った。
ターナという少年はどうやら裕福な家庭で育っているようだ。同い年とは思えないような大人びた様子で、ターナが話す言葉は一言一言意味があるように感じられる。その少年に付いているカグは同じ落ち着いた少年というような印象だが、ターナとは少し違っている。優しげな少年と冷たい少年、それが初めの2人の印象だった。
「ゆっくりしていってね!私は川まで水を汲みにいってくるわっ」
バケツを1つ掴み扉へと向かう。扉のドアノブに手をかけると、くるっと振り返り2人に声を掛けた。
「ありがとうございます、ナツ。もう少しだけここにいさせてもらいますね。」
「…私も手伝います。」
ターナのそばに腰掛けていたカグは、ゆっくりと腰を上げた。
「平気よっ 1人で行けるわ。カグはターナについててあげてっ」
「いえ、私は大丈夫ですので……クスッ、行ってしまいましたね。ーーお言葉に甘えることにしましょう。」
「…はい。」
ナツは嬉しくて走り出していた。
ーーー今日はなんて素敵な日なの!
長い間、1人でこの家で暮らしていたナツは同世代の子と話をする機会がなく、少し寂しげに思っていた。親しい友達が欲しい…そう思っていたナツにとって今日の出会いはとても嬉しいものだった。
水を汲んだら何をしようかしら?
そんなことを考えながら朝より速く川までの道を走り抜けていた。