ヤマツツジ
「待ってろよ!両手いっぱいのツツジを持ってくるからな!」
昨日俺はそう約束したんだ。あの微笑んだ顔を思い出す度、胸がワクワクする。早く見せたい。両手いっぱいの朱色のツツジを見せたら絶対喜んでくれる!早く、早く。
後ろから聞こえてくる、少年の名前を呼ぶ声も耳に入って来ない。今、少年の頭にはツツジに顔を近づけ、笑っているあの人のことしかない。小さな石が転がり、葉の絨毯が敷いてある山路を勢いよく走り抜ける。あともう少し、あともう少し。
後ろから少年の後をひたすら追っている人が、必死で叫んでいる。
「ユーマ!止まって!ユーマ!!」
少年の先には、ツツジの花が広がっていた。
朱色のヤマツツジは、まるで温かな光のようにぽつぽつと花を開いていた。
あった!あったあった!!
勢いよく花に手を延ばして一輪、また一輪と腕に抱えていった。
「ほら!見て!きれいだよな!!」
少年は振り返り、腕に抱えたツツジをこちらに伸ばした。
「うん、綺麗だね。」
ほっ、胸をなでおろす。
まったく、 嬉しそうな顔しやがって。本当こいつはこの花が好きだよなあ。少年の顔につられてにっこり笑ってそう言うと、少年はへへっと得意げに笑った。