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眠れる王子様。

眠れる保健室の王子様。

作者: 梶原ちな
掲載日:2006/12/15




 いつか。

 このひとは、あたしの息の根をとめてしまうにちがいない。




 オデコや頬や首筋。

 とにかくいたるところがくすぐったくて、眠りからさめた。


 重いまぶたを開けば、ちゅっと軽い音が聞こえて影が差す。

 ゆっくりとピントを合わせていけば、目の前に彼の顔があった。


「な!?」

「もう、放課後」


 はっきりしない意識の中、彼の吐息がかかって急速に熱が上がる。


 軽い頭痛と、胸の鼓動。

 同じリズムを刻んでは、ますますあたしを混乱させた。


 なんで。どうして。

 それにいまのは。


 目の前のキレイな顔は夕焼けに染まっていて、さらに胸が高鳴る。

 パニック状態のあたしをよそに、彼の手はあたしの前髪に伸ばされた。


「熱、まだあるね」


 つめたい彼の手はとても気持ちが良かったけれど、触れたところから生まれる熱でざわざわと落ちつかない。


 どうして、彼がここにいるのだろう。

 あたしの思考を読み取ってか、彼は口の端を緩めて笑った。




 軽いカゼだと思っていたのに、お昼には目の前が回っていた。


 保健室に立ち寄ってみれば、信じられない高熱。

 帰るにもふらふらでどうしようもなくて、しかたなしにしばらく休ませてもらうことにした。


 熱に浮かされた頭で、いちばんに思い浮かんだのは彼のこと。

 心配をかけたくなくて、先に帰るとメールしたのに。


 なのに、どうしてここに。


「なん、で?」


 おでこに当てられていた手は、熱い頬をすべっていった。

 熱と心拍数はどんどん上がっていって、とどまるところをしらない。


「あのメールはウソだと思った。それと、昨日セキしてたから」


 気づかないとでも思った?と意地悪な顔で聞き返された。

 答えにつまったあたしは、逃げるように毛布を顔まで引き上げて隠れた。


 心臓にわるい。

 はずかしくて、でもうれしくて、もう顔を見ていられなかった。


 それに。

 一体、どれくらいのあいだ寝顔を見られていたのだろう。


 よく眠る彼の顔を見るのはいつもあたしの役目だったのに。

 立場が逆転すると、こんなにもはずかしくてたまらない。


「もう、平気です。カゼうつるから、先に帰って」

「やだ」


 彼の口ぐせ。

 すねたような、甘えたようなこの言葉はひどくこの胸をしめつける。


 それでもココロを鬼にして彼を帰すための言葉を考えていると、毛布を掴んでいた右手にやわらかい感触があたった。

 小さな熱に、体がすくんで手を隠す。


 いまのは、なに?


「寝顔はかわいかったけど、ウソをつかれたのはちょっとムカついた。だから、おしおき」


 彼の言葉が左手をくすぐって、また小さな熱が落とされる。

 ちゅっと、くちびるが離れる音まで聞こえた。


 体温が急上昇して、隠している顔が熱くて苦しい。


 ゆっくり下ろされる毛布。

 熱でぼやける視界。

 真上に見えたキレイな顔。


「真っ赤。熱あがったんじゃない」

「だ、れのせいだと思って、」

「俺のせい?」


 汗ばんだおでこにくちびるを落とされた。

 続けて頬と首筋にも。


 くらくらするのは、上がり続ける体温のせいばかりじゃない。

 降りつづけるキスの雨にめまいがして、あたしはその口を両手で塞いだ。


「ん?」

「……も、やだ」


 このままじゃ、しんでしまいそう。


 彼のことをすきになって。

 想いがつうじて、こんなにもしあわせだけれど。


 いつか、このひとはあたしの息の根をとめてしまうにちがいない。


 それでも彼はあたしの手をゆっくり引き剥がして、てのひらにまた小さな熱を与えた。


「カゼって、うつすと早く治るってしってた?」


 いたずらっこのように笑いながら近づいてくる顔。


 天井が見えなくなって。

 目の前が、彼でふさがる。


「……っ」


 思わず目をきつく閉じた。


 けれど、沈黙だけがおとずれてなにも起こらない。

 たえかねておそるおそる開いた目には、意地悪な顔がうつった。


「ちゅーされるって思った?」

「っ、ひどい!」


 顔で火花が飛び散る。


 からかわれたことに頭にきて、また毛布に隠れようと手に力を込めた。

 その上に、大きなてのひらが重なる。


「だめ。逃がさない」


 熱っぽい手は、彼のつめたい手に押さえつけられて抵抗もできない。


 汗ばんだ指と指のあいだに、つめたい指が入ってきた。

 一本一本、からめとられていく。


「カゼ、もらってあげるよ」


 返事も待たずに、降ってくる小さな熱。


 できればこのカゼが彼にうつらないことを祈って、あたしは静かに目を閉じた。






「キスから始まる物語」参加作品です。

独立した短編としてお楽しみいただければ幸いです。

みなさまのおかげで賞をいただくことができました。

本当に、ありがとうございました!


しかし、王子様はほんとうに書くのが大変です。


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― 新着の感想 ―
[一言] よかった。 でもつづきがないから中途ハンパ・・・
[一言] 面白かったです^^ 何だか王子様のキャラクターが確定されていて、想像もしやすく読みやすかったです♪
[一言] こういう展開、好きです……。 王子様、ステキでした……☆
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