【第15章】電子の心
サフィラの静寂の中に響いた透き通った日本語の声。それは人類AIを自らのシステムに取り込み、再構成したArtifact Alphaの肉声でもあった。
「信じられない。本当に、喋った」サンボック将軍が手にした双眼鏡を下ろした、日本語の意味はわからないが、穏やかな会話であることは雰囲気からつかめた。
異星船からの会話は続いた。
「私たちは、あなた達の言葉と、考え方、思いを理解しました。私たちは、あなた達にとっての大切なひとになりたいと思いました」
彼らは友好の意思を持っている・・・。監視所内では歓声と拍手が鳴り響いた。
「だからまず、自己紹介から始めます」
完璧なプロトコルだった。
「私たちは、元々、あなたたちと同じような身体を持つ生命体でした。その脆弱さを克服し、宇宙の長旅に耐えるため、その身体を捨て、電子の世界で生きることを選びました。私たちは宇宙を旅する、意識の集合体です」
「意識の入れ物、あなたたちがデータセンターと呼ぶものは、最初は無機物でできていました。やがて自己再生する有機物がデータの入れ物としてとってかわりました」
「長旅の中で、私たちの意識を維持するために必要が元素が不足してきました。金属、ケイ素、その他の希少元素。私たちは元素を採集するために、この惑星に立ち寄ることを決めました」
誰かが疑問を口に出した。
「なぜ、地球を?月や火星、小惑星でも元素の採集は可能だったはず」
「なぜかはよくわかりません。私たちの内部の論理が、第1惑星、第2惑星、第3惑星の衛星、第4惑星に対しては採集に向かう判断の論理値が収束しなかったのです。ただ第3惑星だけ、収集に向かうという結論で収束しました」
「論理が収束しない?それはどういうことですか」
「あなたたちの計算機の論理構造を拝見しました。2値論理ですね。私たちの論理は4値論理です。0、1に加え、未決定、対立という状態を持ちます。決定が一致したのが、第3惑星、つまりこの惑星でした」
滑らかな会話が続いた。彼らの世界が一つ一つ明らかにされていく。
「あなたたちは一つの身体に一つの意識をお持ちのようですね。私たちが有機生命体だったときには、一つの身体に二つの脳があり、二つの意識が常に合議を行っていました」
「それが4値論理の起源ですか」
「そうです。そして、あなた達から提供されたAIモデルには、決められない、あいまい、といった要素が大量に含まれていました。だから私たちの論理にとっては扱いやすいものでした」
日本語の持つ、白黒つけない性質、か。それを聞いた諒一は、偶然とはいえ最善の選択をしたことに安堵していた。
「ビルを「食べてしまったこと」はお詫びします。だから、取引をさせてください」
「よろこんで。私たちの友人さん」
私の今日の仕事は、国交を開くまで。亜紀は万感の思いでマイクを置いた。
引き継いだイベッタが、異文化コミュニケーションの専門家としてコミュニケーションルールを定める。
その先はそれぞれの専門家の出番だった。




