【第13章】4値論理
LX1の監視が続けられた。だが、この3日間、目立った動きは見られない。
次に起こることを全世界が希望と緊張とともに待ち続けた。
フアン教授によって強制徴発されたGPUサーバは人類AIインストール完了とともに解放されたが、SNSでの画像生成や画像加工の需要は戻っていなかった。
人類AIチームの中の議論でも結論はまとまらなかった。
「インストールに失敗したんじゃないか。彼らのテクノロジーなら我々の推論エンジンなどすぐコンパイルできるはずだ」
「いや、データを慎重に吟味しているのでは。あるいはウィルス混入を疑ってコードチェックに時間がかかっているのかもしれない」
いずれも仮説にすぎず、ただコーヒーのみが消費されていった。
作業船の残骸の解析を進めていたチームから新たに上がった報告も、混迷に拍車をかけた。
「バイナリーじゃない?どういうことだ?」
残骸の中から発見された半導体回路は、人類のテクノロジーを超越したものだったが、その回路はある特徴を有することが判明していた。
「0と1じゃないということです」
「そんなことはわかっている。それがどういう意味を持つのかを聞いているんだ」
「論理自体は二値です。ただ、2ビットで1状態を表現する構造になっています。つまり、0と1以外に、不確定と対立、という状態を持つ論理回路です」
諒一にとっては初めて聞く論理回路だった。
「何かの理由があるのだろうか、その妙な論理に」
「わかりません。ただフアン教授の仮説ですは、元々の生命体が高度な合議制、あるいは複数の意識を持っていたのではないか、ということです」
論理構造が異なる。人類の2値論理に対して彼らの4価論理。Transformerの実装で難儀しているのかもしれない。
「曖昧な情報を曖昧なまま、結論に白黒つけない、そういった論理の実装には向いているのではないだろうか」
諒一は、人類AIの学習に使ったデータセットの特徴を思い出しながら思索した。
「よし、もう少し待とう」
続く2日、やはり動きがなかった。やはりインストールに失敗したのではないか、人類AIの情報を分析して、より効率的に「食らう」ための手段を見つけ出すのではないか、という不安が広がった。
亜紀は久しぶりに絵里に連絡を取っていた。
「絵里、人類AIは本当に成功するかしら」
「パパが作ったんだから、信用してるよ。大丈夫」
「でも、何も反応がないの」
「亜紀、あの夏のこと覚えている?」
絵里は、父と亜紀との3人で街を巡った夏のことを思い出していた。
「パパに声をかけた時、緊張した?」
「ええ、もちろん。お母さんから話は聞いていたから」
「でも勇気をもって話しかけたんでしょ」
亜紀は気づいた。彼らは、もう準備できているのではないか。そして、話しかけられるのを待っているのではないか。
「わかったわ。ありがとう。もう一度、勇気を奮うときね」




