【第10章】ハッキング
アリエス連合王国標準時1135。
アリエス連合王国コーストガード巡視船PS021「アラディン」は、サフィラ市の沖合を哨戒していた。アラディン船長のレイラ・スコール大尉は当直として舵を握っていた。
その時、レーダーを監視していた通信科長のブレイン・ノード少尉が鋭い警告を発した。
「レーダーに感あり。方位3-5-0、距離11マイル。速度500ノット、高度500ft。巡航ミサイルです!」
周囲にミサイルを発射するような水上艦は見当たらない。潜水艦に違いない。
-某国潜水艦が、待ちきれず暴走したか-レイラは歯ぎしりした。
巡航ミサイルの弾頭は間違いなく核弾頭だ。この期に及んでサフィラ市を核で焼き払う気か。
「ミサイル、本船の直近を通過する見込み」
ブレインから続報が入る。残念ながら、本船の機関砲はコーストガード仕様だ。海上目標にしかロックオンできないようにFCSに制限がかかっている。みすみす見逃すしかないのか…サフィラ市で活動している隊員たちの姿が脳裏に浮かんだ。
「船長、行けます」
ブレインから予想外の反応が返ってきた。コーストガード仕様のFCSでミサイルを迎撃する?だが、ブレインはハッカーだ。秘策があるに違いない。
「よし、”本船に向かって飛来するミサイル”を迎撃する。機関砲、照準次第発砲!」
火器管制に当たる警備救難科のソレイユが半信半疑で機関砲のスイッチを入れる。FCSが目覚めた。次の瞬間、FCSは即座に時速900kmで飛ぶミサイルにロックオンし、機関砲の砲口は本来ならありえない角度-仰角30度-を向いた。
「発砲!」
ミサイルがアラディンの側方を通過するタイミングを計り、ソレイユがトリガーを引く。ダダダ…一連射された30mm機関砲弾は曳光弾のオレンジ色の光を曳いて低空を飛行するトマホークミサイルに命中した。胴体が真っ二つに切断され、前後に分かれて海面に向かって落ちていく。大きな水しぶきが上がったが、核爆発は起こらなかった。
「ブレイン、一体どうして?」
FCSや機関砲自体は海軍の装備品と基本的に同一性能だ。航空機や巡航ミサイル迎撃にも対応している。だがコーストガード仕様のFCSは、ターゲット速度や砲口仰角が制限されているはずだ。
「船長、FCSの制限は、パラメータファイルに記載されています。最初、パラメータを書き換えればオーバーライドできると思いましたが、パラメータファイルは電子署名で保護されています。書き換えるとFCSは動作しません」
興奮したブレインが自慢げに説明する。
「それで?」
「だからパラメータの数値はそのまま、その単位を書き換えました。なぜか、単位は保護されていなったので」
「どういうこと?」
「ロックオン可能なターゲット速度の上限は100m/s、時速360kmです。ミサイルの速度は時速900kmだから追いつけません。そこで単位をkm/sに書き換えました。文字通り時速36万kmは無理としても、FCS本来のスペックならば、時速900kmなら余裕で追尾します。砲口仰角は+1.5度まで。ラジアンに書き換えれば、機械的制限ギリギリ、ほぼ垂直まで上を向きます」
痛快だった。FCSをまんまと出し抜いたことが。そして仲間を、世界を救ったことが。




