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第24話  甘え方 / 手記②

 一方レベッカは、肩上で切られたベルンの茶色い髪を、鼻歌しながら櫛で丁寧に梳いていた。


 二人して清浄に洗濯された寝間着に着替え、ベルンはベッドの縁に腰掛け、その後ろでレベッカが膝立ちになっている――燭台の明かりに照らされたベルンの表情は、しかし未だ晴れやかではない。伏し目がちで唇は真一文字にしていた。


「……デスタルータさんは、その」


 ベルンが言いかけ、レベッカは鼻歌を止める。「うん。どうしたの?」と微笑みかける。


「あの人、……人、じゃないですよね。えっと、嘘じゃないんですけど、左手から怪物を生やしていて…………」


「あー」とレベッカは苦笑する。「あの人、そのあたり何も説明してないんだ」


「人なんですか?」


「私の口からは言えないかな」と濁すレベッカ。「まあ、こんな風に言ってる時点で、ほとんど喋ってるようなもんだけどさ」


「……信用してもいい方なんですか?」


「まあ、最初はちょっと疑うよね」と苦笑しつつ、レベッカはベルンの後ろ髪を撫でるように梳かす。


「なんかずっと気取ってるし、平気で人を見下すし、見るからに悪人面だし、手放しで信用できないのも無理ないもんね――ただ、」


 悪い人ではないと思うよ。


 と、レベッカは嘘偽りない言葉で語る。


「なんだかんだ数日ぽっちの付き合いだけど、悪だくみする素振りとか全く見せないしね……うん。あの人はなんて言うか、ちょっと人相が悪いだけの、ただの人情屋さんなんだと思う――困ってる人がいたら適当な理由をつけて助けてあげる、ただの気取ったお人好しだよ」


「……とても信頼してるんですね。デスタルータさんのこと」


「まあ、恩人だしね――あの人が居なかったら私、今頃死んでただろうから」


「そうなんですか?」


「うん。そうなんだ」


 レベッカは「バッチリかな」とベルンの後ろ髪を手で梳く。「これならどこに出しても恥ずかしくないね」


「……何から何まですみません。このご恩は必ず…………」


 ベルンが項垂れると、レベッカは手で梳くのを止め、「ううん」と首を横に振る。


「恩を返さなきゃとか、ベルンちゃんが切羽詰まることはないよ――今まで辛かった分、好きなだけ甘えてくれていいんだからね」


 後ろから優しく頭を撫でる。ベルンは両肩を僅かに弾ませるが、何も言わずそのまま受け入れる。


「――そろそろ寝よっか。色々あって疲れただろうしね」


 レベッカはベッドを降り、燭台の蝋燭に息を吹きかけて火を落とし、再びベッドに戻る。


「一緒のベッドで寝ようか」と微笑みかけると、ベルンは小さく頷く。二人横並びに横たわり、同じ布団に入る。


「あの」


 と、か細い声でベルンは呟く。「うん、どうかしたの?」とレベッカは振り向く。


「えっと、その…………」


 ベルンは、体ごとレベッカの方を向いて横向きになって、しかし視線は横に外したまま、しばらくモゴモゴと言い淀んでいたが――次第に頬が赤らみ、耳の先までほんのり充血した頃合いに、


「撫でて欲しくて」と消え入りそうな声で呟いた。「その、……頭を」


 レベッカは寝返り、体ごとベルンと向き合い、両腕を広げて「おいで」と微笑みかける。


 人に対する甘え方を知らないベルンは、だから最初こそ頻りに瞬きして躊躇していたが、「そうしたい」と思う本能が徐々に亢進していき、ズリズリと横向きに這いながらレベッカの胸元に収まった。


 レベッカは片方の手でベルンの背を抱き、もう片方の手でその頭を優しく撫でた。


 ベルンの顔面の強張りが解れていくのに、大した時間は要さなかった。



       *



 本日の出来事についてこの日記に書き留める。


 僕の名はフィローネ・デスタルータ。高貴なるデスタルータ伯爵家の令息であり、悪しき吸血鬼オルゴ・デスタルータの弟である。


 僕には使命がある。


 母君を殺害し、いずこかに脱獄したあの憎むべき兄を探して捕らえ、父君の前に差し出さなくてはならない。


 そのための第一段階として僕は、兄と共に脱獄したというレベッカ・レオナルディの、父親と接触した。


 デスタルータ領から遠路はるばる王都に来訪し、彼が経営する店の二階に上がって、そこで一対一で話をした。


 挨拶がてら、「最近頭が痛い」と言ってみたら、彼は東洋から取り寄せたという霊験あらたかな漢方薬を出してくれた。息子が行商人をやっており、世界各地から種々様々な物品を集めてきてくれるのだとか、云々。


 見上げるべき親孝行者の息子だ。禁術を破って家名を汚す娘とは、まるで正反対だなと思った。


 が、彼自身はそんな娘に対して、意外にも憎しみなどは抱いていないらしかった。


 彼はこんなことを話してくれた。


「あの子は――レベッカは、母親の病を治そうとして、それで禁術に手を染めたんです……確かにあの子の禁術破りが公に知れ渡ったことで、レオナルディの評判は幾分か落ちましたが、それでも私は娘のしたことを糾弾する気にはなれません。親を思う子心に罪はありませんから」


 彼にはまだ、娘への深い愛情があった。


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「あなたは既に知っていると思うが、レベッカ・レオナルディは現在、我が兄オルゴと共に逃亡している。


「そして、我が偉大なる父君は、母君を殺害した唾棄すべき極悪人である兄を血眼になって探しており、これを捕らえた日には死よりも凄惨な目に遭わせるだろうことは明らかだ。


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 これを聞くと、彼は哀れなほどに慌てふためいた。


「そうですが、いや、確かにそれは、しかし」と、何か言いかけては、どれも言えずにいた。


 が、彼が何を言いたがっているのかは、言わずとも明らかだった。


「どうか娘のことは見逃してやってください」


 に決まっていた。


 その反応が見れたので、僕は続けてこう話した。


「僕は兄を捕らえるよう、父君から命じられている。


「それが果たせられない場合には貴様を殺すとまで言われている――だから、とにかく可及的速やかに兄を探し出さなくてはならない。


「そのためには協力者が必要だ。


「もしあなたがオルゴ・デスタルータの捜索に協力してくれるのなら、


「レベッカ・レオナルディのことについては便宜を図ると約束しよう」


 彼は首を勢いよく縦に振って即決した。


 良心に付け入るようで頭が痛いが、僕だって死にたくないのだ。やむを得まい。


 以上、本日の出来事である。

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


 ◆ザンナ王国――オルゴとレベッカの母国

 ◆スヴァルカ王国――ザンナの南に位置する隣国

 ◆アンビエンテ――スヴァルガ国の辺境都市

 ◆ブジアの村――スヴァルガ国辺境の貧しい村


 これまでのあらすじ。


 〇レベッカはオルゴを大部分のところで信頼している。

 〇ベルンがレベッカに甘える。

 〇フィローネがレベッカの父親を手中に加える。


 高貴なる吸血鬼オルゴ・デスタルータと、マイペースな少女レベッカ・レオナルディの凸凹コンビを、これからもよろしくお願いします!


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