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第16話 漂う血の気配

 一方のシュバルツ、オルゴ、レベッカの三人は、三角形の陣形で歩いていた。


 案内人であるシュバルツを先頭にし、その斜め後ろにオルゴとレベッカが並ぶ形である。


 彼らの左右には荒地じみた田園風景が広がり、前方にはこじんまりとした家屋がポツポツと立ち並んでいた。


「お前さん方は、アレだな」


 先頭のシュバルツが、何の気なしという風に切り出す。


「見た感じ二人だけで旅しとんかい? まだ随分若そうだが、生い立ちの程はどうなっとるんだ」


「我々は成人だ」と間髪入れずに虚言するオルゴ。「己の方はともかく、エルカーンはよく未成年と間違われるがな」


 シュバルツはひょいと振り向き、レベッカを一瞥し、「へえ、そうかい」と納得のいかなそうな顔をしてから、再び前方に向き直る。


「見た目では分からんもんだなぁ。てっきりそっちの嬢ちゃんは、ウチの娘の5つか6つくらい上だと思ってたんだが。アテが外れたってやつかよ」


「さっき奥の方で麦刈りしていた子ですか? 名前は確か、ベルンちゃんでしたよね」と尋ねるレベッカ。


「ああ。今年で10になるかな――パッと見、男みてえだろ? 髪が短けえし、愛嬌もねえからな。アレはアレで、見た目で分からんってやつだ。そういう意味ではな」


 この言い草に異議を唱えるのはオルゴである。


「貴様は自分の娘のことを、随分と腐すのだな」


 不愉快そうに眉を顰めつつ、シュバルツを詰る。


「利口な娘ではないか。親の仕事を文句ひとつ言わず手伝って。当たり前のことではないのだぞ」


 隣のレベッカも、これに頷いて同調する。親が我が子を下げて語ることはさして珍しくもないが、シュバルツの語り口からは愛情のようなものが微塵も感じられなかった。


「ヘッ、『文句の一つ言わない、利口な娘』ねえ」


 対するシュバルツは、オルゴの指摘などどこ吹く風、一向に軽薄な語り口で答える。


「そりゃそうだ。『余計なことは言うな』ってアイツにしつけたのは、他ならぬこの俺なんだからな……お前さん方も、ベルンの言うことには耳を傾けねえほうがいいぜ。なんせあいつは村一番の()()()()ときたもんだからな。狼少女なんて異名まで付くぐらいだ」


「……どんな嘘を?」


 怪訝な面持ちを浮かべつつ、レベッカは尋ねる。


「そりゃお前さん、聞かねえ方がいいってやつだぜ。アレの嘘は笑えねえっていうか、不謹慎だし、不愉快な気持ちになる手合いのモンだからな……ま、そんでも聞きたいってンなら話してやらんでもないが」


「もったいぶらんで疾く申せ。貴様の冷遇が適切に値するかどうか、高貴なるこの己が判断してやる」とオルゴは食い気味に急かす。


「ヘッ、何を義憤ぶってやがんだか」


 シュバルツは自分が悪者にされたようで語気に苛立ちを滲ませつつ、「ま、だったら望み通り聞かせてやるよ」と。


「ちゃんと俺の話を一から十まで聞いて、それから判断すればいいってもんだ」


 それからシュバルツは、「アレは今から何年前の話だったかな」と語りだした。「アイツは生まれつき犬みてえに嗅覚が達者でいやがるから、ちょっとした芸みたいなことも覚えさせてやったりしたもんだがよ」、と。


 しかし、オルゴとレベッカの二人とも、その話に全く耳を傾けていなかった。


 先んじてオルゴが足を止め、それに倣うようにしてレベッカも足を止め、従ってシュバルツだけが前に前にと進んでいく形になっていた。


 彼らは現在、田園風景を半ば脱しており、寂れた家屋がポツポツと周囲に並び立つ、村の住宅地に行き着いていた。


 案の定というか不景気の村である、家屋のことごとくはどこかしらが朽ちたり壊れたりしたまま、補修すらされていない。


 また、彼らの目の届く範囲内には、シュバルツを除いて誰一人として村人が存在していなかった。


「あン?」とシュバルツは後ろを振り向く。あまりにも相槌がないことに、ようやく違和感を覚えて立ち止まったのだ。


 そして、後方の冒険者が二人して突っ立っているのを認めると同時に、「そりゃ何の冗談だ?」と毒づいた。「人に喋らせといて聞く気はナシってか? 随分と景気のいいことじゃねえの」と。


「人が死んでいる」


 断言するのはオルゴである。


 レベッカとシュバルツは周囲を見渡すが、どこにも死体が転がっている様子がなければ、大騒ぎする声が聞こえるわけでもない。


「お前さんなりの、不謹慎な嘘ってか?」


 シュバルツは麦わら帽子のツバを摘まみ上げ、オルゴを見上げる。


「こっちだ」


 オルゴはマントを翻しつつ右に転回し、そのまま早足でズンズンと進んでいく。


 その後ろにシュバルツがついていき、隣にレベッカが並走する。


「どうして分かるんですか? 人が死んでいるかどうかなんて」とレベッカは小声で尋ねる。


「血の気配だ」とオルゴは歩きながら答える。


「高貴なる吸け、……己ともなると、周囲に存在する血液の()()を知覚することすら可能である。視覚でも嗅覚でもなく、第六感でそれを感じられるのだ――これによると、今向かっている方向ではどうやら、()()()()()()()()()()。人ならば確実に死んでいるであろう大量の血液が、どこか地面の上にドクドクと流れ広がっているに違いないのだ」


「おォ、どういうつもりか知らねえけどよ、」


 後ろからシュバルツが声を上げる。


「お前さんはじゃあ、今から死体見に行こうってつもりなのか? やめとけってそんな見世物じゃねえんだし。言いたかねえけど余所者は余所者らしくしてくれよ」


 しかしオルゴは歩みを止めない。頑として主張する。


「基本的に安全なはずの村落の中で大量出血が起きたということは、事故よりも事件である可能性が高い――となると、我々は早急に死体を調べて、犯人を特定しなくてはならない。チンタラしていると犯人に証拠を隠蔽され、全くの無関係者に()()を吹っ掛けることになりかねんからだ」


「……はァ、わーったよ」


 と。


 シュバルツは投げやりに言うと、その場で足を止める。


「じゃあお前さん方で好きなだけ見てこいや。俺ァ一応ここで待っててやるが、夜になったら帰るからな。そん時は他の村人頼って、村長のとこまで案内してもらえや」


 オルゴとレベッカは二人して立ち止まり、半身に振り向く。


「貴様が来ないでどうする。この村の人間なのだろう?」


「俺にも色々あんだよ」とシュバルツは腕を組む。


 オルゴは怪訝そうな表情でシュバルツを睨んだが、今は取り合っている暇ではないと決め、


「貴様には聞かねばならぬことが山積みだな」


 と言い残してレベッカと共に去った。

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


 ◆ザンナ王国――オルゴとレベッカの母国

 ◆スヴァルカ王国――ザンナの南に位置する隣国

 ◆アンビエンテ――スヴァルガ国の辺境都市

 ◆ブジアの村――スヴァルガ国辺境の貧しい村


 これまでのあらすじ。


 〇ベルンは狼少女? 大嘘吐き?

 〇オルゴの吸血鬼センサーが反応。村の中で殺人事件?

 〇シュバルツが他の村民と顔を合わせたがらない。


 高貴なる吸血鬼オルゴ・デスタルータと、マイペースな少女レベッカ・レオナルディの凸凹コンビを、これからもよろしくお願いします!


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