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第14話 禁欲的節制を伴う冒険

 スヴァルガ辺境のとある森の中で、現在レベッカは拘束されている。

 立ったまま木に縄で括りつけられ、両手足をブランと放り出しつつ、ぐったり項垂れている。


 そこにジリジリ迫り寄るは、見るもおぞましい一匹の魔物。


 毛むくじゃらで、腕が左右に3本ずつ生えており、ぐふぐふといやらしい笑みを漏らしながら、2足歩行でレベッカににじり寄っている。


 魔物は6本の手をワキワキと動かし、今まさにレベッカの体に触れようとした――が、その時。


「【スムースウインド】」


 と唱えつつ、レベッカは項垂れたまま右手を前方に突き出す。


 途端、毛むくじゃらの魔物の全身は、強烈な向かい風に襲われた。


 重量にして200キログラムはあるだろう巨躯は、枯葉のごとくビュンと吹き飛ばされ、地に落ちては宙に舞いを繰り返し、やがて木の幹に直撃するとそのまま動かなくなった。


「はい一発……やっと終われる。きつく縛り過ぎなんだよなあの人……なんだっけ、身体強化魔法の詠唱文は」


 木に縛られたまま顎を指で摘むレベッカ。「アレだ」と思い出し、「【暴力ヴィオレンツァ】」と唱える。


 見かけ上の変化はないが、レベッカの肉体は大幅に強化され、彼女がふんっと踏ん張ると縄はいとも簡単に引き千切れた。


「魔法使ったらお腹減っちゃったよ……干し肉食べよ」


 レベッカは毛むくじゃらの魔物に近付きつつ、肩掛けカバンから干し肉を取り出して噛み千切る。アンビエンテから出る前に保存食として買い溜めていた。


「それにしても難儀な魔物ですねぇ。身動きの取れない生物しか襲わない習性って……臆病なのか姑息なのか知らないですけど、人様に迷惑かけてしまったからには死んでもらわないと」


 と呟きつつ、レベッカが地面に倒れたままの魔物に右手をかざしたその刹那、彼女の後方で何か動物が駆けているような音がする。


 何事かと振り返ると、虎と狼の合いの子のような見た目をした魔物が、彼女に向かって一直線に迫ってきていた。


「そっちへ行ったぞ、小娘。仕留めてしまえ」


 虎狼の向こう側にはオルゴの姿。左手に傘を差し、右手に真っ黒なロングソードを握っている。


「――なんてもん寄越してるんですか、急に!」


 虎狼は絶叫するレベッカ目掛け、ガウと吠えながら飛び掛かる。その口は大きく開かれ、太く鋭利な牙が剥き出しになる。


 レベッカは動揺しつつもすぐさま反応し、虎狼に向かって右手を突き出しつつ、「【アッシュフレア】!」と張り上げて唱える。


 瞬間、レベッカの手の平から火炎が噴き出し、虎狼の全身は瞬く間に燃え尽きて灰と化し、そして欠片もなく崩れ去った。


「……あーあ、急に差し向けられたせいで消し炭にしちゃった。これじゃ依頼達成の証明できないじゃないですか。灰だけ持っていって『ちゃんと討伐しました』って言っても誰も信じてくれないですよ」


「咄嗟に手加減が出来てこそ一流の冒険者というわけだ。精進あるのみだな――それはそれとして、」


 オルゴはレベッカを横切り、毛むくじゃらの魔物の前に立つ。


「ハッ、お手柄じゃないか。こちらは綺麗に倒したようだな」


 上機嫌に嘲笑しつつ、オルゴはロングソードを逆手に持って毛むくじゃらの魔物に突き刺し、頭蓋をかち割って絶息させる。


 そのままの流れで、彼はロングソードの剣先を自らの足の甲に突き刺す。


 吸血鬼の力で作り出した真っ黒なロングソードは、足の甲から吸収され、オルゴの血肉に取り込まれた。


「納品するのは鼻だけで良かったはずだな、コイツは」


 オルゴはしゃがみ込み、毛むくじゃらの魔物から鼻をむしり取り、コイントスでもする風に親指で弾いて遊ぶ。


「ここに」


 とレベッカは、麻袋の口を開いてオルゴに差し向ける。ギルドに納品する物品を集めるためにと、干し肉と一緒にアンビエンテで購入していた。


「うむ」と承知しつつ、オルゴは魔物の鼻を親指で弾き飛ばす。鼻は放物線を描きつつ、みごと麻袋の中に入った。


 レベッカは麻袋の口を紐で縛りつつ、「依頼はあと一つでしたっけ?」と尋ねる。


「二つだ。虎狼の討伐依頼と、ハチの巣模様のキノコの採取依頼だな――が、」


 オルゴは答えつつ、空を見上げる。

 夕方に差し掛かり、赤みを帯びている。もう間もなく夜が訪れるだろう。


「今日はこれまでだ。そろそろ寝床の確保をしなくては」


「……ああ、じゃあ」


 レベッカは毛むくじゃらの魔物に視線を注ぐ。


「今日の夕食はアレって感じですかね……丸焼きにしておくので、寝床の方は今日も任せますね」


 実に三日間。


 彼ら二人は、そのように冒険生活していたのだった――日中は二人で魔物の討伐や薬草等の採取をし、夜になれぱレベッカが調理を、オルゴが寝床の用意をし、夜が明ければまた依頼の消化に繰り出してといった具合に、ひたすらルーティンを繰り返していた。


 高貴さからかけ離れた、野性味あふれるその生活スタイルを、しかし推進したのはオルゴの方だった。


『デルフィーノ氏から頂戴した路銀は、出来るだけ大事に取っておかねばならん』


 というのが、彼の主張だった。


『金はここぞという時の切り札として残しておかなくてはならん。散財するのは依頼達成の目途が立ってからだ』


 レベッカはこの主張に対し、渋々ながらも同意していた。


 彼女は投獄されていた期間も含め、かれこれ一週間程度マトモな寝床につけておらず、本音を言えば大枚叩いて最高級の宿屋を借り、フカフカのベッドに埋もれたい一心だったのが、とはいえオルゴを説得するだけの材料も持ち合わせていなかったため、超ストイック生活を甘んじて受け入れていた。


 しかし、そんな彼女にもようやく春が訪れることになる。


「いいやレオナルディよ。今日は飯も宿も金で調達するぞ。ジビエも野宿も昨日で終いというわけだ。喜べ」


 レベッカは一瞬キョトンとしてから、みるみる両目に光を宿らせ、「本当ですか!?」と声を張り上げる。


「ああ。依頼達成の目途が概ね立ったからな」


 オルゴは森の出口に向かって歩きだし、レベッカは麻袋を背に負ってついていく。


「未達成の依頼は残り二つだけだ」と二本指するオルゴ。


「虎狼の住処は今日で粗方分かったから翌朝にでも討伐すれば良いし、ハチの巣柄のキノコに関しては最悪見つからなくても良い。報酬はかなり高いが、他九つの依頼報酬だけでも充分な稼ぎにはなるからな――なのでこれからは、多少金遣いを荒くしても構わんだろうという塩梅だ。まあ貴様がこれからもハイパーストイックライフスタイルを所望なら一人で勝手にすればいいが」


「絶対に嫌です。ほかほかご飯とあったかい布団じゃなきゃ嫌です」


 レベッカは食べ進めていた干し肉の残りを口の中に放り込み、ぼやく。


「保存食にしたって、もっと色んな種類が欲しいですよ。干し肉だけじゃ秒で飽きますって」


「少しでも羽振りを良くした途端にこれだ。人間の欲深さにはほとほと呆れてしまうばかりだな」


「反動ですよ反動。こちとら牢獄生活と野宿生活ハシゴしてんだからちょっとぐらい贅沢言わせてくださいよ」


 くちばしを尖らせるレベッカ。「あ、ていうか」と切り替え、質問。


「肝心の宿はどこにするんですか? ここまでの道中でいくつか村とか町は通り過ぎましたけど、どこも景気悪そうでしたよね。近場に宿屋皆無ってことありません?」


「別に宿屋がなくとも、誰かしらの家を訪ねて金を握らせれば、相応の飯と寝床は提供してくれるだろう。そういう使い方をするために今まで節約していたのだ」


「はえー、お金って本当に何でも出来るんですねぇ……あ、それならいっそブラッドクロットで金を増やしたりとかしません? 造ればいいじゃないですか。吸血鬼の力でお金を」


 オルゴは呆れ顔になり、「戯言を」と嘆息交じりに吐き捨てる。


「個人が無制限に資本を生み出したら経済が混乱するのは明白だ。不特定多数の他人に大迷惑をかけながら自分だけ豊かになりたいとは己は思わん――商人の娘が聞いて呆れるぞ全く」


「……そんな言わんでもいいじゃないですか。ちょっと言ってみただけなのに」


 といじけるレベッカ。「そもそも私、経済の仕組みとか大して詳しくないんで。魔法一辺倒ですからね」


「魔法一辺倒……まあ実際、貴様の魔力保有量と魔力変換効率が普通人のそれより高いというのは、あながちホラではなかったようだな。食事さえ満足に摂れば、あれだけの威力の魔法を連発出来るわけだ」


「いや、まあ、ね。ハハ。まあ私にはそれくらいしか取り柄がないもんですから。いやいや。ハハハハ…………」


 レベッカは手うちわで顔をパタパタする。口の形が逆三角形になる。


「謙遜するな。貴様はその才をより一層伸ばすが良い。()()に備えてな」


 手うちわが止まる。『本番とは何ぞや』と面持ちも固くなり、やがて『そういうことか』と合点すると、途端に神妙な顔つきになって、隣のオルゴを見上げた。


「……敵討ち、ということですか?」


「いかにも」


 表情は凛としたまま、首肯するオルゴ。


「明日以降、我々はアンビエンテに引き返す。ギルドで依頼達成の旨を報告し、報酬を得るためだ――ただし、その道中はただ突っ切るだけにあらず。町に村にと逐一立ち寄っては、吸血鬼に関する情報を集め、我が仇敵への手がかりを求めるのだ」


「……普通の人なら、」


 と前置きするレベッカ。


「仇がどうとかはテメーの問題なんだからテメーだけで解決しろやってなるところですけど――ま、いいですよ。協力しますよ。私にも思うところがあるのでね」


 オルゴは「ハッ」と嘲笑し、「小生意気を」と軽口した。

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


 ◆ザンナ王国――オルゴとレベッカの母国

 ◆スヴァルカ王国――ザンナの南に位置する隣国

 ◆アンビエンテ――スヴァルガ国の辺境都市


 これまでのあらすじ。


 〇ギルドを発って三日経ち、依頼を九割方完了している。

 〇久々にマトモな宿に泊まれそうで歓喜するレベッカ。

 〇母親の敵討ちを完遂するべく算段を立てるオルゴ。


 高貴なる吸血鬼オルゴ・デスタルータと、マイペースな少女レベッカ・レオナルディの凸凹コンビを、これからもよろしくお願いします!


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