9.追放の準備は、追放される側が一番嫌がる。
ギルド支部の小会議室。
木の机に、廃塔から持ち帰った石片と、簡単な地図が置かれていた。
ヴァン、セラ、ガード、ミナ、そして支部長。俺は端に座っている。
会議の空気は冷たい。
誰かを責めるためじゃない。死なないために、現実だけを並べる。
ヴァンが言った。
「今日、オサムが狙われた。
俺は一瞬止まった。……その一瞬で死ぬ」
ガードが腕を組む。
「盾もずれた。
守る対象がいると、受ける角度が変わる。角度が変われば衝撃が増える。衝撃が増えれば骨が折れる」
セラが静かに続ける。
「詠唱が揺れた。
揺れたら、核に届かない。届かなければ倒せない。倒せなければ押し切られる」
ミナが唇を噛み、俺を見ずに言った。
「……オサムは準備が完璧。撤退線も助かった。
でも、助かるほど、守りたくなる。守りたくなるほど、判断が鈍る」
支部長が口を挟む。言葉は少ない。
「契約は明確です。
役に立つかどうかで判断してください。
情で判断すれば……全員が損をします」
損。
能力のことは言わない。言えない。
だが損の意味は全員分かる。依頼の成功率、街の治安、収益、死者数。全てに繋がる。
ヴァンが俺を見た。
迷いがないとは言わない。だが、決めようとしている目だ。
「オサム。次の潜りで、同じことが起きたら――」
俺は先に言った。
「切ってください。追放してください。
俺は戦えません。皆さんの判断を鈍らせるなら、俺がいる意味がありません」
その言葉を言うのは痛い。
だが、見せかけではダメだ。俺は本気でやって、本気で不要と判断されなければ《追放補正》は動かない。
そしてパーティ側も、本気で“不要”と結論を出さなければならない。
セラが目を閉じた。
「……あなた、変だよ。普通、そんなこと言えない」
「普通じゃないからです」
俺は苦笑してしまいそうになるのを堪えた。
「戦えない一般人が、普通の道を選んだら死にます。
だから普通じゃない道を選んでるだけです」
ミナが小さく息を吐いた。
「……生きてね」
その言葉が、情に聞こえる。
だがミナの目は揺れていない。揺れていないから、追放は成立し得る。
会議はそれ以上進まなかった。
結論を先に決めると、追放が“作り物”になる。作り物では発動しない。
だから必要なのは、次の現場で全員が“同じ答え”に自然に到達すること。
その夜、俺はギルド端末を眺めていた。
当都市分の契約は稼働中。追放が成立すれば、元パーティの依頼成功のたびに1割が俺の口座へ入る。
だが今は、まだ追放されていない。
稼ぎの流れは、まだ始まっていない。
不労所得が欲しい。
でも、その前に必要なのは――生き残ることだ。
生き残れなければ、口座に何が入っていても意味がない。
明日は再挑戦。
廃塔の奥が、こちらを待っている。




