表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

7.廃塔の石像は、呼吸する。動く前に、もう殺しに来ている。

廃塔は丘の上に立っていた。

崩れた階段、欠けた外壁。だが入口だけは妙に整っている。

生きているダンジョンは、外見が朽ちていても、内部が“機能”している。


中へ入った瞬間、空気が変わった。

湿気が重く、音が吸われる。

足音が自分の耳の中にだけ残る感じがして、気持ち悪い。


壁沿いに石像が並んでいた。

翼を持つ獣。口を開けた悪魔。鎖を巻いた彫像。

どれも彫りが細かい。細かいほど怖い。細かいほど“本物”に見える。


ミナが小声で言う。


「……動くなよ」


ヴァンが剣の柄に手を添える。


「動く。だから来た」


セラは杖を握り、ガードは盾を構える。

俺は入口付近に杭を打ち、ロープを通し、撤退線を“物理的に”作る。

戦えない俺にできる最大の支援は、戻る線を目に見える形にすることだ。視界が悪いダンジョンでは、一本のロープが命綱になる。


――ぎぎ、と石が擦れる音。


石像の一つが、首だけを僅かに動かした。

次の瞬間、翼が開き、床を蹴って跳んだ。


ガーゴイル。

石の翼で空を滑るように跳び、爪で肉を裂く。

硬い。重い。速い。

攻撃の質が“殺し”に寄っている。


「来た!」


ヴァンが一歩踏み込み、剣で爪を弾く。

火花が散り、手首が痺れる。硬い。刃が通らない。

ガーゴイルは勢いを殺さず、翼で体を回して、後ろ脚で蹴りを入れる。


ガードが盾で受けた。

衝撃が鈍い音を立て、床がきしむ。

盾が押され、ガードの踵が滑る。


セラが火球を放つ。

表層の苔と煤が焼け、石肌が赤く光る。だが止まらない。

核を砕かなければ止まらない。核は胸の奥、関節の内側、あるいは喉の奥に隠れていることが多い。


ミナが横へ回り込み、目を細めた。


「核……位置が、見えない!」


ガーゴイルは彫像のような身体で、あり得ない角度でひねり、尻尾で薙いだ。

風圧だけでミナが壁に叩きつけられそうになる。


ヴァンが叫ぶ。


「押さえろ! 核の位置を出させる!」


ガードが盾を突き出し、体当たりで壁際に押し付ける。

ガーゴイルの翼がばたつき、石粉が舞う。

ヴァンの剣が関節へねじ込まれ、石が僅かに割れた。


その割れ目の奥に、淡い光。

核だ。


「見えた!」


ミナの矢が割れ目へ吸い込まれ、核をかすめた。

足りない。核は硬い。

セラが詠唱を短縮し、衝撃波を叩き込む。

割れ目が広がり、ヴァンがそこへ刃を押し込む。


――石が砕ける音。


ガーゴイルが硬直し、そのまま崩れ落ちた。

倒れた彫像の中から、石の匂いと鉄の匂いが一緒に立つ。生き物を倒したはずなのに、死体が石だという事実が、気持ち悪さを増やす。


全員が息を吐く。

だが、終わっていない。ダンジョンは呼吸している。石像はまだ並んでいる。


ヴァンが俺を見た。


「撤退線、確認。いいか」


「はい。ここです」


俺はロープを握り直し、杭の固定を再確認した。

手が汗で滑りそうになる。戦えないことが怖い。だが、怖いから準備をする。準備をするから、生き残れる可能性が上がる。


その時――

また、石が擦れる音がした。


別の石像が、動いた。


一体目より小さい。だが、動きが静かで、速い。

奇襲に特化した個体だ。


ヴァンが舌打ちする。


「……二体目かよ」


廃塔の奥は暗い。

戦闘が続けば続くほど、こちらの消耗が増え、撤退の判断が難しくなる。


俺は胸の奥で、冷たいものを飲み込んだ。


(……この街の“追放”は、まだ先だ)


でも、空気は確実に変わり始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ