3.不労所得は最高だ。だが、能力は一円も生まない。
朝。
俺はベッドの上で仰向けになったまま、ギルド端末を操作していた。
画面には、契約一覧と口座の入出金履歴。
まだ「入金確定」は出ていない。もちろんだ。金は能力から湧かない。
金が動くのは――追放したパーティが依頼を成功させた結果が出たときだけ。
この世界に来たばかりの頃、俺は金に困っていた。
前世の最後の記憶は、雨の日の交差点と、眩しすぎるライト。
次に目を開けたら異世界、というやつだ。
期待したチート? そんなものはない。
ステータスを確認して、俺は笑うしかなかった。
魔力:ほぼゼロ。筋力:並以下。器用さ:低め。
スライムに絡まれて死にかけた時点で確信した。
――俺は前に出たら終わる。
だから俺は、“戦わずに価値を作る”道だけを探した。
その時、ステータス画面の詳細欄に、ひとつだけ意味不明な記述があった。
《追放補正》:
条件を満たし追放された場合、追放したパーティに恒久補正を付与する。
ただし当該事実が第三者に露見した場合、補正は剥奪される。
読んだ瞬間、背筋が冷えた。
強化されるのは俺じゃない。追放した側だ。
しかも露見すれば剥奪。
つまりこれは、英雄の道具じゃない。制度の裏側でしか生きない歪みだ。
だが、歪みでも使い道はある。
この世界の街は、冒険者の層が薄いと簡単に壊れる。
主力が欠けた瞬間に詰む。下位が育たないと詰む。
だからギルドは常に「中堅を準主力に押し上げたい」。
俺はそこに、交換条件を提示した。
「俺は戦えない。だが、追放されればパーティは強くなる。
だから“追放される役”として使ってくれ。
ただし能力の話は秘匿。露見したら終わりだ」
ギルドは即答しなかった。
俺が嘘をついている可能性がある。
確認できない。確認した瞬間に露見のリスクが上がる。
それでもギルドは、しばらくの実績を見て判断した。
そして契約が生まれた。
ここが重要だ。契約は二段階で固定されている。
第一:ギルド ⇔ 俺
能力に関する秘匿
俺の身分偽装(“見習い補給係”など)
都市間の移動手配(目立たない護衛含む)
追放が成立した後、成果分配を実行する義務
第二:ギルド ⇔ パーティ
非戦闘員(俺)を同行させる斡旋契約
役に立たなければ追放してよい(ただし見せかけ禁止)
追放成立後、そのパーティが依頼を成功させるたび、依頼報酬の1割をギルドが俺へ支払う(永続)
ここで誤解してはいけない。
俺がパーティから奪うのではない。
分配の支払い主体はギルドで、契約条項に基づく。
ギルドは、街のためにその仕組みを回す。
つまり俺の金は、能力の“配当”じゃない。
強くなったパーティが命を張って稼いだ「依頼成功」という結果があり、
その結果から契約に従って、ギルドが俺に1割を支払う。
それだけだ。
そして、最大の縛り。
一都市(一ギルド)につき、契約できるパーティは1つだけ。
囲い込み防止。
能力漏洩防止。
戦力バランス崩壊防止。
どれも当然で、どれも重い。
だから俺は、追放が成立した時点でその街には留まれない。
次の都市へ移る。
同じ街で何度も追放される、なんて展開は協約が許さない。
端末を閉じて、俺はベッドの上で天井を見た。
ここまで来るのは本当に大変だった。
能力の確認。
ギルドとの交渉。
「見せかけの追放」を防ぐための発動条件の擦り合わせ。
都市間協約の存在。
そして、実績を積み上げて“制度”として回すまで。
(……ようやく、歯車になれた)
英雄になりたいわけじゃない。
世界を救いたいわけでもない。
俺はただ、戦えない一般人として生き残りたい。
できれば、静かに稼ぎたい。
そのために、今日も俺は追放される。
そして追放した側が稼いだ結果の1割が、遠回りに俺の口座へ積み上がっていく。
不労所得は最高だ。
だが、勘違いするな――
それは誰かの命が稼いだ“結果”の上に成り立っている。
励みになるので評価よろしくお願いします!




