2.追放したはずなのに、妙に噛み合う。
翌朝。
カイルたちは三人で浅層ダンジョンへ入った。
隊列が短い。
足音の間隔が均等だ。
後ろにいるはずのオサムがいない。それだけで空気が軽く感じる――そう思いたかった。
「……変な感じだな」
カイルが呟く。
ユイが弓を握り直し、小さく息を吐く。
「静か。……いつもより、音が少ない」
「余計な荷が減ったからだろ」
リサがそっけなく言う。
だがその声も、どこか固い。
ダンジョンの空気は湿っていて、壁には苔が張り付く。
床はぬめり、踏み外せば転ぶ。転んだら終わり。
最弱扱いの魔物ですら、倒れた首に覆いかぶさって呼吸を奪う。
――来る。
壁際の影が、ぬらりと動いた。
スライムだ。しかも一体じゃない。四体。
粘液が床を濡らし、光を鈍く反射する。
核の位置が分かりにくい。
スライムは弱そうに見えて、殺し方が上手い。
「散開!」
カイルが叫ぶ。
剣が抜ける動きが、やけに滑らかだった。
ユイの矢が一体の核を正確に射抜く。
リサの火球が表層を蒸発させ、核の位置を浮かび上がらせる。
カイルは迷わず踏み込み、核に突き刺した。
一体、二体、三体。
最後の一体が逃げようとした瞬間、ユイの二射目が核を貫き、液体が弾けて消えた。
短い。
無傷。
消耗も少ない。
「……終わった?」
ユイが息を吐く。
リサが眉をひそめる。
「こんなに……あっさりだった?」
カイルは答えない。
集中できている。判断が早い。連携が噛み合う。
まるで以前からこの三人で組んでいたみたいに、動きが滑る。
(……俺たち、元々こんなに動けたか?)
そう思った瞬間、胸の奥がざらついた。
昨日の追放が、正しかったように感じてしまうのが嫌だった。
奥へ進むと、今度はゴブリンの群れ。
五体。
正面に二。左右に散る三。
合図の笛を持つ個体がいる。囲い込み、囮、分断。
ゴブリンは“弱い敵”じゃない。弱いのは装備であって、殺意の質は高い。
「囲いに来る!」
ユイの声。
カイルは一歩下がり、あえて背を見せた。誘う。
以前なら、背を見せる勇気は出なかった。後ろに“守るべき非戦闘員”がいたから。
リサの魔術が左を薙ぎ、二体が壁に叩きつけられる。
ユイが右の一体の膝を射抜き、動きを止める。
カイルは残る二体の喉へ滑り込み、ためらいなく切り裂いた。
静寂。
「……私たち、強くなってない?」
ユイが恐る恐る言う。
リサは腕を組む。
「少なくとも動きが良くなってる。集中できてる」
カイルは唇を噛んだ。
追放の決断が、正しかったように見えるのが怖い。
追放は正当化しやすい。人は都合のいい理屈を拾う。
(……オサムが重荷だっただけ、か?)
そう思えば説明はつく。
守る対象が消えた。だから動ける。
でも、それだけじゃない“伸び方”をしている。
例えば判断の速さ。
例えば間合いの読み。
例えば互いの動きが見えているような、噛み合い。
「結果が出てるなら、いいじゃない」
リサが言い切る。
ユイも小さく頷く。
「……オサムには悪いけど」
カイルは口を閉じた。
追放は撤回できない。撤回すれば迷いが残る。迷いは戦場で死ぬ。
三人はまだ知らない。
この“違和感”が今日だけのものではなく、これから積み上がっていくものだということを。
そして、それが誰の力によるものなのかを知った瞬間、剥奪されるということも。
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