表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

15.領主会議。町を守るのは剣だけじゃない。制15.

リンデン辺境伯の執務室は、豪華ではない。

むしろ軍の詰所のように簡素で、壁には地図と補給表、討伐記録が貼られている。

金を飾る場所ではなく、死者を減らす場所だ。


執政官ルーファスが、机に報告書を置く。


「洞窟ダンジョン、ゴーレム個体を討伐。死者なし。負傷二。

《黒鉄の牙》の連携は改善傾向。ただし……」


ルーファスは言葉を切り、視線を上げた。


「補給係オサムの存在が、戦闘判断に影響を与えています」


向かいに座る男が、指を組んだまま聞いている。


辺境伯グレゴール・フォン・リンデン。

軍服に近い衣装。大柄で、目の奥が暗い。

笑わない目だ。笑えない現実を見ている目。


「影響、とは?」


グレゴールが低く問う。


ルーファスが答える。


「守ろうとする。

一瞬、意識が割れる。

その一瞬が、前線では死を呼ぶ」


辺境伯は頷いた。

怒りも驚きもない。最初から想定していた顔だ。


「追放は成立しそうか」


その問いが、全てを物語る。

最初から、追放は“予定”に組み込まれている。

ただし見せかけでは意味がない。自然に全会一致へ到達させる必要がある。


「はい」


ルーファスは淡々と答える。


「《黒鉄の牙》は合理的です。

オサムの準備能力は評価しつつも、戦闘面の害を切ります。

追放が成立すれば、補正がかかり、主力は“町の使いやすい最強”へ寄る」


グレゴールは地図の一点を指した。

リンデン砦市の北側。山脈沿いに点がいくつもある。ダンジョン位置だ。


「この線が崩れれば、次は王都が騒ぐ」


ルーファスが静かに言う。


「すでに騒ぎ始めています。

王都から監査官が来ます」


「名は」


「王都監査官セシリア・アルヴェーン。

王室直属の監査局――《白銀院》所属です」


辺境伯が短く息を吐いた。


「……ついに王が匂いを嗅ぎつけたか」


政治が、王まで繋がる。

その中心に、戦えない一般人のオサムがいる。

滑稽だが、現実だ。


ルーファスは続けた。


「監査官は制度を嫌います。

制度は“説明できる形”にすると漏れます。

漏れれば剥奪が起き、主力が落ち、町が落ちます」


「なら、説明はするな」


辺境伯が即答した。


「説明せずに納得させろ。

王都の連中には、“結果”だけを見せろ。

我々は前線だ。前線の現実は、紙の上の正義より重い」


ルーファスが頷く。


「そのためにも、オサムを次都市へ移す必要があります。

一都市一PT協約は、囲い込み防止であると同時に、“追跡の分散”です。

一箇所に留めれば、監査官の目に止まります」


辺境伯は地図を叩いた。


「よし。追放が成立したら、次は《ノースウェル市》へ回せ。

あそこは商都だ。金も情報も多い。監査官の目も届きにくい」


商都。金と情報。

俺が好きな要素が揃っている。だが同時に、漏洩リスクも高い。

政治回は、そこへ繋がる。


辺境伯は最後に言った。


「町を守るのは剣だけじゃない。制度だ。

そして制度は、誰にも触らせるな。触らせたら壊れる」


その言葉は、俺に向けたものではない。

だが、俺の人生を決める言葉だった。


一方その頃、ギルド支部の奥で、エルンストが端末の報告を確認していた。

追放はまだ成立していない。

だから成果分配も、まだ始まらない。


だが、始まるのは時間の問題だ。

《黒鉄の牙》の合理性が、それを決める。


エルンストは窓の外を見て、独り言のように呟いた。


「……均衡を守るために、均衡の外側を使う。

皮肉だが、これが現実だ」


そして机の上には、次都市――ノースウェル市の紹介状が、すでに用意されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ