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14/15

14.ゴーレムは重い。重さは、逃げ遅れを殺す。



出発は早朝。

今回の依頼は、リンデン砦市の北側、山道を越えた先の洞窟型ダンジョンだ。


報告によれば、出現個体は――ゴーレム。


スライムやゴブリンが「油断したら死ぬ」なら、ゴーレムは「油断してなくても死ぬ」。

重量級の拳が当たれば鎧が潰れる。盾ごと折れる。足場が崩れる。

逃げる、という選択が遅れた瞬間に終わる。


洞窟の入口は広いが、奥へ進むほど狭くなる。

狭くなるほど、ゴーレムは強い。

回避の余地が減り、盾の角度が固定され、撤退が難しくなる。


俺は入口で杭を打ち、ロープを通し、撤退線を作る。

そして“重さ”に対抗するため、滑車を組んだ。

万一誰かが倒れても、引きずり出せるように。


ザイオンが目を細める。


「……そこまでやるか」


「やらないと死にます」


俺はいつも通り言った。


奥へ進む。

洞窟は冷たく、湿気が肌に貼り付く。

水滴が落ちる音が、やけに大きく聞こえる。

静かな場所ほど、次に来る音が怖い。


――ごり。


石が擦れる音。

地面が僅かに震える。


「来るぞ」


マルクが槍を構える。

オルドが杖を握る。

グラムが斧を振り上げる。

シェリルは影に溶け、ザイオンは前に出た。


暗闇の奥から、巨体が現れた。


岩の塊に、関節だけが人間のように組まれている。

目の位置に赤い光。

拳は丸太ほどの太さ。

足が一歩出るたびに、床が鳴る。


ゴーレムは遅い。だが遅いからこそ、当たったら終わりだ。

そして遅いからこそ、逃げ遅れを確実に殺す。


ザイオンが声を飛ばす。


「関節を狙え! 核は胸だ、割れ目を作れ!」


グラムが斧を振り下ろす。

だが刃が弾かれる。火花。

硬い。石像系とはまた違う“質量”の硬さだ。


マルクの槍が膝の関節へ刺さる。

刺さるが、抜けない。

ゴーレムが腕を振り、槍ごとマルクを吹き飛ばしかける。

マルクは寸前で槍を離し、後ろへ転がって避けた。


「くそっ、重い!」


オルドの魔術が走り、関節部に亀裂を作る。

そこへザイオンが剣をねじ込み、割れ目を広げる。

シェリルの短剣が関節の隙間へ滑り込み、内部の繊維のような魔力線を断つ。


ゴーレムが僅かに傾ぐ。

だが、倒れない。

倒れる前に、拳が来る。


拳が床を叩いた瞬間、地面が揺れ、岩片が跳ね、視界が乱れた。

衝撃で洞窟の天井から石が落ちる。

落ちた石が通路を塞ぎかける。


(まずい)


撤退路が狭い。

重い敵相手に狭い撤退路は、死に直結する。


俺は咄嗟に叫んだ。


「撤退線! 今、下がって!」


命令じゃない。

“手順の確認”だ。

だが叫ばずにいられなかった。下がる判断が半拍遅れたら終わる。


ザイオンが一瞬だけ、俺の方を見た。

その一瞬が危ない。

守ろうとしたら、剣が止まる。


ゴーレムが、俺の方向へ半歩向きを変えた。

狙っている。

“弱い方”を狙う。

単純だが、それが一番殺せる。


「オサム!」


シェリルが叫び、矢のように飛ぶ。

グラムが怒鳴り、斧で拳を逸らす。

ザイオンが胸の割れ目へ刃を突き立て、核へ届かせようとする。

オルドが魔術で石を砕き、割れ目を広げる。


核が見える。赤い光。

ザイオンが刃を押し込む。


――砕けた。


ゴーレムが崩れる。

崩れる瞬間、通路がさらに狭くなる。

だが、倒せた。生きている。


帰路、ザイオンは無言だった。

無言の意味が分かる。

さっき、俺を見た一瞬で判断が鈍った。

その一瞬が致命傷になりかけた。


宿へ戻り、装備を片付けながら、グラムが吐き捨てた。


「……やっぱり邪魔だ。

守る対象がいると、俺たちは死ぬ」


その言葉に、誰も反論しなかった。

反論しなかったことが、追放の準備になる。


俺は静かに頷いた。

本気で頑張って、本気で不要と判断される。

それが俺の役目だ。

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