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13/15

13.日常は、前線の裏側にある。稼ぎは静かに積もる。

《黒鉄の牙》の拠点は、ギルド支部のすぐ裏にあった。

倉庫を兼ねた訓練場。壁には武器、天井から吊るされた肉、床の隅には砥石と油。

“生活”が戦闘の延長にある場所だ。


俺はそこで、まず自分の立ち位置を確定させた。


前に出ない。

戦闘線に近づかない。

装備を整え、撤退線を作り、帰還後の処理を担当する。


それだけ。


だが、主力パーティは“それだけ”が重い。

必要な物資は多く、情報は常に変化する。

下層ダンジョンなら松明とロープで足りても、リンデンの前線は違う。

毒、酸、呪い、石化、裂傷。

それぞれに対策が必要だ。


魔術師の男――オルドが俺を見て言う。


「石化対策の粉、増やせるか」


「在庫はあります。

ただ、携行量を増やすなら誰かの荷を減らす必要がある」


槍使いのマルクが言う。


「俺の予備槍を一本減らす。折れる確率はあるが……石化は一回で終わる」


判断が早い。

こういうやり取りができるのが主力だ。


斧使いのグラムは不機嫌そうに言った。


「お前、口だけは達者だな」


「口しか使えないので」


俺が淡々と返すと、グラムは笑いかけて、やめた。


その瞬間が危ない。

“守りたくなる”空気の芽だ。


俺は会話を切り上げるように、端末の通知を確認した。


――成果分配(確定)

――支払元:グレイハース支部

――支払額:当該依頼報酬の10%(永続)


さらに、もう一件。


――成果分配(確定)

――支払元:前都市(※記録名:旧市街支部)

――支払額:当該依頼報酬の10%(永続)


二つの川。

二つの町。

二つのパーティが稼いだ結果が、ギルド口座を経由して俺の口座へ積もる。


(……これが、理想)


働かずに稼いでいるように見える。

だが、現実には俺も働いている。

ただし“戦わない労働”。それがこの世界では異質だ。


シェリルが横から覗き込み、ぽつりと言った。


「……金、好き?」


「好きです」


即答すると、シェリルは少しだけ口角を上げた。


「素直。

この町だと、金を嫌う奴ほど死ぬ。

嫌ってる暇があるなら買えるものを買え、ってね」


日常回、と言える時間は短い。

だが短いからこそ、言葉が刺さる。


その夜、ギルド支部の一室で、エルンストが領主館へ報告に行っていた。

表向きは、補給係の配属状況。

だが実態は、制度の稼働確認だ。


執政官ルーファスが言った。


「《黒鉄の牙》は反発していたが、受け入れたようだな」


「命令に逆らえないだけです。

……ただし、あのパーティは合理的です。不要なら切ります」


「切る必要がある」


ルーファスの声が低くなる。


「成立しなければ意味がない。

当市の主力が“使いやすい最強”に寄るには、痛みが必要だ」


痛み。

その言葉の意味は、一つしかない。


追放。


そして追放された俺は、また次の町へ移る。

制度は回り、町は強くなり、俺の口座には結果が積もる。


それが冷たくて、合理的で、だからこそ怖い。

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