13.日常は、前線の裏側にある。稼ぎは静かに積もる。
《黒鉄の牙》の拠点は、ギルド支部のすぐ裏にあった。
倉庫を兼ねた訓練場。壁には武器、天井から吊るされた肉、床の隅には砥石と油。
“生活”が戦闘の延長にある場所だ。
俺はそこで、まず自分の立ち位置を確定させた。
前に出ない。
戦闘線に近づかない。
装備を整え、撤退線を作り、帰還後の処理を担当する。
それだけ。
だが、主力パーティは“それだけ”が重い。
必要な物資は多く、情報は常に変化する。
下層ダンジョンなら松明とロープで足りても、リンデンの前線は違う。
毒、酸、呪い、石化、裂傷。
それぞれに対策が必要だ。
魔術師の男――オルドが俺を見て言う。
「石化対策の粉、増やせるか」
「在庫はあります。
ただ、携行量を増やすなら誰かの荷を減らす必要がある」
槍使いのマルクが言う。
「俺の予備槍を一本減らす。折れる確率はあるが……石化は一回で終わる」
判断が早い。
こういうやり取りができるのが主力だ。
斧使いのグラムは不機嫌そうに言った。
「お前、口だけは達者だな」
「口しか使えないので」
俺が淡々と返すと、グラムは笑いかけて、やめた。
その瞬間が危ない。
“守りたくなる”空気の芽だ。
俺は会話を切り上げるように、端末の通知を確認した。
――成果分配(確定)
――支払元:グレイハース支部
――支払額:当該依頼報酬の10%(永続)
さらに、もう一件。
――成果分配(確定)
――支払元:前都市(※記録名:旧市街支部)
――支払額:当該依頼報酬の10%(永続)
二つの川。
二つの町。
二つのパーティが稼いだ結果が、ギルド口座を経由して俺の口座へ積もる。
(……これが、理想)
働かずに稼いでいるように見える。
だが、現実には俺も働いている。
ただし“戦わない労働”。それがこの世界では異質だ。
シェリルが横から覗き込み、ぽつりと言った。
「……金、好き?」
「好きです」
即答すると、シェリルは少しだけ口角を上げた。
「素直。
この町だと、金を嫌う奴ほど死ぬ。
嫌ってる暇があるなら買えるものを買え、ってね」
日常回、と言える時間は短い。
だが短いからこそ、言葉が刺さる。
その夜、ギルド支部の一室で、エルンストが領主館へ報告に行っていた。
表向きは、補給係の配属状況。
だが実態は、制度の稼働確認だ。
執政官ルーファスが言った。
「《黒鉄の牙》は反発していたが、受け入れたようだな」
「命令に逆らえないだけです。
……ただし、あのパーティは合理的です。不要なら切ります」
「切る必要がある」
ルーファスの声が低くなる。
「成立しなければ意味がない。
当市の主力が“使いやすい最強”に寄るには、痛みが必要だ」
痛み。
その言葉の意味は、一つしかない。
追放。
そして追放された俺は、また次の町へ移る。
制度は回り、町は強くなり、俺の口座には結果が積もる。
それが冷たくて、合理的で、だからこそ怖い。




