10.追放成立。稼ぎは“結果”から来る。俺は結果を作れない。
三日後。
再挑戦の依頼は、同じ廃塔だった。
朝の空気が冷たい。
丘を登る足取りが重い。
全員が分かっている。今日は“確認”の日だ。
オサムがいることで死ぬか、生きるか――その現実確認。
廃塔の中は、前回より静かだった。
静かすぎる。
ダンジョンは人を油断させるときほど、殺意が濃い。
最初の広間。
石像が並び、影が揺れる。
――ぎぎ。
動いた。
一体目。前回と同じ型。
ヴァンとガードが受け、セラが割れ目を作り、ミナが核を狙う。
連携は前回より良い。確実に良い。
それでも緊張は消えない。
二体目。
静かで速い個体。奇襲型。
前回、俺を狙ったやつと同じ匂い。
ミナが叫ぶ。
「来る!」
俺は反射で撤退線を握り直す。
前に出ない。出れば死ぬ。
でも、影が俺に向かって伸びた。
二体目が床を滑り、また俺の喉へ――
「オサム!」
ヴァンの声。
その一瞬、剣が止まった。
セラの詠唱が揺れた。
ガードの盾が沈んだ。
ミナの矢が外れた。
一瞬。
だが、その一瞬で全員が理解した。
(まただ)
(また止まった)
(また守ろうとした)
(このままじゃ死ぬ)
ミナが矢を放つ。今度は翼の付け根を貫いた。
ガードが盾で体当たりし、ヴァンが関節へ刃をねじ込み、セラが衝撃を叩き込む。
核が露出し、ヴァンが刃を押し込む。
――石が砕ける。
二体目が崩れ落ちた。
だが、全員の顔が青い。倒せたからではない。倒せたのが“運”だと分かったからだ。
そのまま撤退。
帰路の足音は、追放の足音に近かった。
支部の小会議室。
椅子が軋み、空気が張り詰める。
ヴァンが宣告した。
「オサム。お前は今日で追放だ」
選択肢はない。
脱退でもない。相談でもない。
全会一致で不可逆。追放は“宣告”だ。
ガードが続ける。
「準備は助かった。撤退線も助かった。
だが戦闘では、守る対象が増えるだけだ。
俺たちは生き残るために、お前を切る」
セラが目を閉じた。
「ごめん。……でも、これは正しい判断」
ミナが最後に言う。
「……生きて。次の街でも」
その言葉が情に見えても、目は揺れていない。
全員が“不要”に到達している。
それが追放だ。
俺は深く頭を下げた。
「……了解です。ありがとうございました」
胸の奥に熱が走る。
《追放補正》が成立した感覚。
だが――俺が強くなるわけじゃない。俺は相変わらず戦えない一般人だ。
数日後。
廃塔の討伐報告が上がった。ヴァンたちが奥で出現した追加個体を処理し、依頼を完遂したという報告。
連携が滑らかになっている。判断が早い。核を割る手順が噛み合っている。
明らかに一段上がっている。
その“結果”が出た瞬間、ギルド端末に通知が入る。
――当都市分:成果分配(確定)
――支払額:当該依頼報酬の10%(契約条項に基づきギルドより支払)
金は能力から湧いていない。
ヴァンたちが命を張って依頼を成功させた“結果”があり、
その結果の一割が、ギルドを通して俺に支払われた。永続で、今後も。
同時に、もう一つ通知。
――移動手配:次都市行き(協約により当都市の枠は終了)
一都市一PT。
追放が成立したら、俺は次の街へ行く。
同じ街に留まれば詮索が増え、剥奪が起きる。剥奪は街を殺す。
支部長が廊下で俺に言った。
「お疲れ様でした。……次も同じです。
ですが次の街は、空気が少し違う」
「政治、ですか」
支部長は答えなかった。
答えないことで答えている。
その夜、支部長は通信石で短く報告する。
『追放成立。補正確認。依頼達成率上昇。
成果分配も条項どおり、依頼報酬の一割をギルドから支払いました。
オサムは次都市へ移送します。協約どおりに』
向こうの声が短く言った。
『……よし。まだ表には出すな。剥奪の芽は潰せ』
通信が切れる。
俺は馬車に乗り込む。
次の街へ。次の役目へ。
追放されるために。生き残るために。静かに稼ぐために。
強くなるのは俺じゃない。
俺は結果を作れない。
結果を作るのは、戦う者たちだ。
俺はただ、その結果の一割を、契約で受け取る。
――戦えない一般人の、生存戦略として。




