第七章 禁忌の理を超えて
互いの気持ちに気づいてから、俺たちの間には、甘く、そして息苦しい空気が流れ始めた。学校では視線が合うたびに、互いに気まずく逸らす。店では、必要最低限の会話しか交わせない。触れたいのに、触れられない。この距離が、もどかしくて狂いそうだった。
その夜、嵐が来ていた。激しい雨音だけが響く深夜の店内で、俺たちは二人きりで残務整理をしていた。停電の復旧作業で、涼おじさんたちは出払っている。
沈黙が、痛い。
「…あのさ」
「…うん」
同時に口を開き、そしてまた黙り込む。そんなことを何度か繰り返した後、俺は意を決して、彼女の隣に立った。
「石本、俺…」
名前を呼んだだけで、声が震える。絢子は顔を上げない。ただ、その肩が小さく震えているのが分かった。
「…分かってる。藤木くんが、言いたいこと」
「……」
「ダメだよ。私たち、間違ってる。分かってるの。でも…」
絢子の声が、嗚咽に変わる。俺は、もう限界だった。タブーも、掟も、世間体も、どうでもよくなった。ただ、目の前で泣いているこの少女を、抱きしめたかった。
そっと伸ばした指先が、彼女の震える肩に触れる。絢子はビクリと体を強張らせたが、俺を拒絶はしなかった。それが、彼女の答えだった。
引き寄せた体は、驚くほど細くて、儚くて。俺は壊れ物を抱くように、力の限り絢子を抱きしめた。絢子の腕が、ためらいがちに俺の背中に回る。
「…好きだ、絢子」
耳元で囁くと、彼女はしゃくりあげながら、俺の胸に顔を埋めた。
「…私も、好き。直樹くん…」
初めて呼んだ下の名前。それが、俺たちの境界線を越えた合図だった。どちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねる。雨音に紛れたそのキスは、甘くて、しょっぱくて、そしてどうしようもなく切なかった。
俺たちは、愛し合ってしまった。この世界に否定されると、わかっていても。




