第二章 桜吹雪と運命の悪戯
季節は巡り、春。
高校の入学式。満開の桜が風に舞う中、俺は欠伸を噛み殺していた。これから始まる退屈な三年間。どうせ、親の七光りをやっかむ奴らか、媚びへつらってくる奴らしかいない。そう思っていた。
新入生代表の挨拶が終わり、各クラスの担任紹介が始まる。俺は、1年C組。自分の席にだらしなく腰を下ろし、窓の外を眺めていた。その時だった。
「じゃあ、隣の席になった石本絢子です! 趣味は…うーん、弟たちと遊ぶことかな? 3年間、みんなと仲良くできたら嬉しいです! よろしくお願いします!」
太陽みたいな笑顔。鈴が鳴るような声。クラス中の視線が、一人の女子生徒に集まる。その顔を見て、俺は時が止まるのを感じた。
石本…絢子?
あの薄暗い応接室で、人生の全てを諦めたような顔をしていた女と、今、教壇の前で屈託なく笑う少女が、どうしても結びつかない。彼女は、クラスの中心で女子の輪の中にいる。男子たちが、遠巻きに「超カワイイ」と囁き合っているのが聞こえた。
ーーーーハッ、息を呑んだーーー
絢子も、俺の存在に気づいたらしい。目が合った瞬間、彼女の顔から笑顔が消え、さっと血の気が引いていくのが分かった。その表情が、すべてを物語っていた。
おいおいおいおい!!面接にきたこだよなぁ!!うちでは、はたらくって??!?!?!?
運命の、悪戯。神様がいるなら、相当性格が悪いらしい。俺と絢子の、奇妙で、ぎこちない高校生活は、こうして最悪の形で幕を開けた。




