第11章 代償
冬の気配が色濃くなった十二月。俺は、仕事でミスをしたキャストを、事務所で怒鳴りつけていた。俺の荒れ様は、もはや誰にも止められない。
「いい加減にしろ、直樹!」
涼おじさんの怒声が飛ぶ。
「お前、最近おかしいぞ! 自分のことばっかりで、周りが見えてない! 絢子ちゃんだって、最近顔色が悪いじゃないか。お前、気づいてないのか!」
絢子…?
その名前に、俺の心臓が嫌な音を立てて軋む。そうだ、言われてみれば、最近の彼女は不自然なほど痩せて、目の下にはいつも隈ができていた。俺は、自分の苦しみに溺れるあまり、一番大切だったはずの人間の、すぐそばで上がっていた悲鳴に、耳を塞いでいたのだ。
何か言わなければ。謝らなければ。もう一度、話をしなければ。
焦燥感に駆られた俺は、その日の仕事終わり、絢子を待った。しかし、いくら待っても彼女は事務所に戻ってこない。胸騒ぎが、どんどん大きくなっていく。
その時だった。店の電話が、けたたましく鳴り響いた。涼おじさんが取った受話器の向こうから聞こえてくる断片的な言葉。
「…女性が刺され…病院に…はい、石本、絢子…」
頭が、真っ白になった。
-----ハッ------




