スキマバイト奔走記 家庭教師編1
ハッキリ言って私には、他人に勉強を教える程の学力は備わっていません。非常に残念です。
それなのに家庭教師なんて務まるのか?
当然ながら無理ですな。しかし、私が指導させていただくのは、、、、かけっこです。
つまりスポーツ家庭教師です。
都会は凄いですね。田舎では案件がなさすぎて成り立たないと思います。
登録制で指導できる科目やスポーツを選択しておけばメールや電話で案件が送られてきます。
私の場合は、陸上、体操、水泳ですね。スポーツの専門学校を卒業後、実際に指導の経験もあるので自信があります。
登録して間もなくメールが届きます。
7月21日 午後5時 90分 2850円
◯◯公園 小学4年生 女 ジョイ子(仮)
走るのが苦手でいつも体育の時間が苦痛らしいです。かけっこを中心に運動の基本を教えて欲しいそうです。
メールを確認したら、OKのメールを返します。あとはこちらから、メールにのっている連絡先に電話して挨拶と確認をしておきます。
電話はジョイ子のお母さんに繋がりました。舌足らず少女のような話し方をします。個人的にですが、ぶりっ子肯定派です。幾つになろうが、それが、計算でも仮の姿でもいいのです。否!!男はみんなぶりっ子が好きなのである、、、話が逸れました。
家庭教師デビュー戦。自分の服装と待ち合わせ場所を伝えておき、自転車で現場へ向かいます。
猛暑の中、ペダルを1時間ほど回し、なんとか公園に到着。ミーン、ミン、ミンミ〜〜。蝉が五月蝿い。ヤツらのせいで2度くらい気温が増してるのではあるまいな、、、。
時計を見ると、30分ほど時間があります。取り敢えず汗を抑えがてら、公園を下見へ向かう。
ジャングルジムやブランコなどの遊具がある公園、その横にテニスコートがあったり、広いコンクリートの地面の広場もあります。
夏休みで少し人がいますが、暑さのおかげで空いてました。これなら走れます。
待ち合わせ場所で待っていると、それっぽい親子が向かってきます。場違いなルブタンの靴に白のワンピースとハットのお母様、青いリュックに短パン姿の娘さん。
「お待たせしましたぁ。宜しくお願いしますぅ」間違いない。声は聞き覚えがあるし、イメージ通りです。お母様、、、いやむしろお嬢様という感じです。お嬢様に促され娘さんも照れながら挨拶をしてくれました。
「、、先生、お願いします」
「うん。こちらこそ宜しくお願いします。ジョイ子ちゃん、今日は暑いけど頑張ろうね」と笑顔を返します。対人関係において1番大切だともいえるのが笑顔。語尾にイを無言でつけるように喋るのがポイントです。ホテルやビルこ受付嬢が使うテクニックの一つらしいですよ。
3人で少し雑談を交わしながら下見した広場の方へ向かい、いよいよ走りの家庭教師を開始です。
日傘で見守るお嬢様(お母様)の目の届く範囲でまずは軽いランニングから。
肩の力を抜くようにアドバイスをして、お喋りしながらゆっくり走ります。
「学校の体育では何してるの?」
「んー、、夏はプールとダンスです!」
「あぁ、最近はダンスもあるんだよね。難しい?」
「うん、、苦手。でも走るのが1番苦手です」
「そっか、そしたら先ずは走るの得意になるよう頑張ろう」
子供はいないが、スイミングスクールで教えていた経験があります。まずは楽しんでもらうこと、親に気に入ってもらう事が重要。
少し走ったら準備運動をして身体を整えます。なるべく動的なストレッチをして怪我の防止をしておく。一緒にやっていると自身の身体が鈍っているのに気付かされます。
「じゃあちょっと走ってみようか!録画してもいいかい?」
いやいや、変な趣味ではないですよ。フォームの確認です。了解を得てジョイ子が走るのを横から撮影。
、、、これはなかなかです。腕は外に開いていて、足が上がっていません。頭は右に傾いてしまっています。
走りに大切なポイントは3つです。
1、腕は90度で前後に大きく降る
2、足はしっかり上げて地面を蹴る
3、目線はまっすぐにゴールを見る
初心者や子供の場合は、この3つで随分変わりますよ。
お嬢様も呼び、動画で確認し、ポイントを伝えます。しきりにうなづき熱心な2人。やたらと感心してくれます。自然と調子に乗る私、、、。
「じゃあ、お手本に先生が走るから見といてね」おいおい、走れるのか?もう、おっさんだぞ。気をつけろ。脳内にアラートが鳴り響きます。
クラウチングスタート。力強く腕を振り、地面の反発を活かして駆ける。そう。赤兎馬の如く。ウマ娘のごとく。10メートル、20メートル、もうこの辺でいいかな?いや、短過ぎるか、あともう少しだけ、、、30メート、、ッ!?イタッ。
足が絡まります。左のふくらはぎが張っている。転んだら恥ずかしいぞ。いたたたっ。すぐにスピードを落とす。なんとか違和感を隠す。いてぇ〜、調子乗りましたぁ〜、ごめんなさい。心の中で誰にともなく謝る。
靴紐直す振りでふくらはぎを伸ばします。そのあとゆっくり2人のところへ駆け寄る。
「すご〜い。先生足速い!」ジョイ子が拍手で迎えてくれました。セーフ。お嬢様も笑顔で拍手。
想定外の大きなリアクションをされて、少し恥ずかしい。
その後、自分では走らずに、短い距離のダッシュを何本か続けます。
子供の素晴らしいところは吸収率の高さです。フォームは直ぐに改善されました。
私の足はもう既に死んでいる。帰りは自転車を置いて電車で帰りたい、、、。
水分補給をしながら、ジョイ子の走りにアドバイスをしていく。あっという間に90分が過ぎました。
クールダウンをして、最後に感想を訊きました。
「今日はどうだった?」
「楽しかった!ね、お母さん、ワタシけっこう走れてたでしょ?」とジョイ子は満足そうだ。
「そうだね。本当に走り方が最初と最後で全然違ってたよ!先生、ありがとうございました。またお願いしてもいいですか?」
「もちろんです。宜しくお願いします」最後も笑顔で締めくくり、2人を見送ります。
さて、足がよくなるまで公園のベンチで休むとしますか、、、。
このスポーツ家庭教師の一回目はお試しです。気に入ってもらえたら継続になり、報告書を毎月送付し、翌月お金が振りこまれるようになっています。
これだけで食っていくのは難しいですが、うまくスキマに嵌れば楽しい上に、コミュニケーション能力が見につきます。興味がある方は検索してみて下さいね。