梅雨の散歩
三題噺もどき―ろっぴゃくきゅうじゅういち。
薄い雲が夜空を覆う。
見えるはずの星は生憎隠れてしまっていた。
月はかろうじて見えるけれど、それもすぐに雲に隠れてしまう。
散歩中くらいは見えてくれたら嬉しいのだけど、そういうわけにもいかないのだろう。自然というのは、何も思い通りにはいかないのだ。
「……」
どうにも、天気の安定しない日々が続いている。
雨が降ったかと思えば、カラリと晴れてみたり。晴れたと思えば、大雨に降られたり。
梅雨に入ったのだから、雨が降るのは当然だろうけど……こうも安定しないでいると気分的にもよろしくない。
「……」
ただでさえ、こう、気温と雨のせいでジメジメとしているのだ。
昨年はもっと涼し気のある湿気だった気がするが、今年はひたすらに気持ちが悪く暑苦しい湿気ばかりで嫌になる。
雨が降れば多少涼しくなるかと思えばそうでもなく、むしろ暑さに拍車がかかるような気がしてならない。
「……」
ゲームのように簡単に気候が変えられたのなら、きっと今すぐにでも春や秋の気候に変えてしまいたくなるだろう。
夏は暑いし冬は寒い。
しかし冬は夏の暑さが恋しくなり、夏は冬の寒さが恋しくなる。
なにもかも、思うようにはいかないということだろう。
「……、」
しかしまぁ、それはそれとして暑い。
時刻はとうに深夜を超えていると言うのに、ジメジメとした空気がそこかしこにある。
この時間でも20℃を超えているらしいから、昼間なんて更に暑いのだろう。もう夏だっただろうか……。
6月のこの時点でこの暑さでこれだけ参っていると、これから訪れる本格的な夏は恐ろしくなってくるな。
「……」
昔は、陽の下を歩ける人間に嫉妬を覚えたこともあるのだけど。
こうも暑くなったりしてくると、そんなもの全くなくなってしまう。むしろ可哀想だと思うのだが……燦々と照らす陽の下を、あっちに行ったりこっちに行ったり。
何をするにも外に出ないといけないのに、外に出ればあの太陽が照らしている。
「……」
私も一応、対策をすれば歩けなくはないのだけど、昔はそうやって昼間もたまに出歩いていたこともあったのだけど、今はそんなことをしようという気にもなれないな。
暑すぎて対策したところで意味がないように思える。はたから見たら変な奴だからな……外を歩く人間は大抵半袖で肌をむき出しにしながらどうにかして涼を得ようとしているのに、真黒な長いコートを着ている奴なんて、あまり見ないだろう。
「……」
夜はそんなことをしなくてもいいから、それに比べたら軽装になるだろう。
肘のあたりまで長さのある黒い大き目サイズのTシャツに、細身の黒いパンツ。靴は歩きやすいようにスニーカーを履いている。
寝癖が酷かったのでキャップを被ろうかと思っていたが、忘れていたことに今気づいた。
まぁ、見ている人が居るわけでもなし。大丈夫だろう。
「……」
あぁでも、被っていたら大き目の扇子代わりにはなったかもしれない。
なんとなく手で仰いだりもしているが、一向に暑さはぬぐえない。
暑さというよりもこれは、湿気によって空気が重いからよくないんだろう。
居心地の悪さというか、若干の気だるさというか、そういうのがどうにも消えないのだ。
「……」
気分的には、もう少し歩いていたいところだが。
……そろそろ帰るとするか。
これ以上散歩をしていても、気分転換以上に疲れてしまいそうだ。
墓場に行きたかったところではあるが、まぁ、後日でもいいだろう。
もとより、あまり頻繁に行くようなところではないのだ。
「……」
帰って、冷蔵庫に入っていたアイスでも食べよう。
いつの間に買ったのか作ったのか知らないが、美味そうなものがあったのだ。
こう暑苦しい日には、きっと丁度いいだろう。
「ただいま」
「おかえりなさい、何か飲みますか」
「あぁ、くれると嬉しい」
「アイスもありますよ」
お題:星・嫉妬・ゲーム