楠木来宮【封印した特殊能力】
楠木来宮
1997年10月27日 この世に生まれた。
わたしは人の過去を
書き換える能力を持って生まれた。
都合がいいように
苦しみやトラウマを記憶から消し、
本人が望む過去に書き換えることができる。
事実とは違う過去を作り、
それを脳内に埋め込むようなイメージだ。
両親はわたしが5歳になる頃に離婚した。
水商売をしていた母は昼間はほとんど寝ていて
夜は仕事に出ていたため、
祖父母に育てられたようなものだ。
寂しさとか、
普通の家庭と違う環境であることなど
気にすることもなくそれなりに幸せに
愛情も受けながら育ったと思う。
なんの不満もなかった。
アイツが来るまでは。
母が父と離婚して半年後、
父は亡くなった。
そして父が亡くなって一周忌を迎える前に
すぐに店のお客と再婚した。
わたしは父が好きだった。
わたしは実の父以外を父とは認めたくなかった。
そんな気持ちが、きっと血の繋がりがない
母の再婚相手に伝わっていたんだろう。
“気に食わない娘だ“
そんな風に思っていただろうと思う。
母は再婚した後も夜の仕事を続けた。
それを良く思っていなかった再婚相手は
毎日のように母と喧嘩するようになった。
わたしはそれをみて笑った
心の底から笑っていた。
祖父母は何も言わなかったが、
夫婦喧嘩が絶えない環境の中で育つ
わたしへの影響や
ストレスがかかることを心配し気遣ってくれた。
しかし
とても楽しい日々だった。
不仲になってゆく二人をみて
息ができないほど笑ったんだよ。
再婚相手がこのまま消えてくれればいいと願っていた。
これは実験だ。
わたしは毎晩、
再婚相手が眠っている間に記憶を書き換えてやった。
父はお前が殺した、
そうまでして一緒になったのに、
母には他の男がと不倫していることにしてやった。
金髪で若い男。
お前とは似ても似つかない男。
よかったね、
義理父さん(おとうさん)
義理父はわたしの思う通りに操れた。
朱華先生は出会った頃、
わたしにこう言った。
「誰もが必要とされ、使命を持ち人間として生まれている」
朱華先生が言うことが本当なら、
きっとわたしは
誰かの人生を消すために生まれてきたんだと思う。
そうじゃなきゃ
わたしがこの能力を持つわけが無い。
なんの文句も言わない
大人しい娘が授かった恐ろしい能力。
再婚相手は何度も過去を書き換えられたことで
精神は乱れ、どんどん攻撃的になった。
ある日、
激しい口論をしている二人の間に
止めに入った祖母だったが
再婚相手は祖母を突き飛ばし怪我をさせた。
それをきっかけに、
母や祖父母だけでなく
わたしにも手をあげるようになった。
ついに母は再婚相手を殺した。
とても計画的で、
全て順調だった。
実験は成功したんだ。
遺体は母が眠っているときに
祖父母と一緒に庭の柿の木の近くに埋めた。
わたしは笑った。
心の底から嬉しくて、嬉しくて
たまらない気持ちだった。
そして母が寝ている間に過去を書き換えた。
アイツの存在自体を母の記憶から消してやった。
母は父を愛していて、
父は病で亡くなった。
悲しみを抱えながらも父を想い、
わたしと祖母と暮らしている
幸せに暮らしている。
永遠に。
朱華先生にから初めて霊視セッションを受けた時、
こう言われた
朱華「どれが本当のあなた?わたしにはわかる。
なぜなら、過去は変えられないものだから。」
そう言われた時、
わたしは自分が行った実験は失敗だったのではないかと思った。
完璧だったはずなのに。
その答えがはっきりするまで、
わたしは朱華先生の側にいると決めた。
そして、次の実験を決行するために。
朱華先生は、
アイツを埋めた柿の木から木札を作り、
わたしの体内に埋め込むことで
この恐ろしい特殊能力を封印してくれた。
朱華「あなたが持ったこの力が
使命に必要になった時が来るまで封印します。」
わたしはそれを承諾した。
祖父母と母の記憶は
先生が言う通りに書き換えた。
だからわたしは
先生と共に生きるしか無くなった
他人を支配したはずなのに
今は朱華先生に支配されたいるような気分だ。
“先生、わたしね
先生の記憶も書き換えられるんだよ。”