京都編④【仲間になる条件】
京都で出会った京助
美しくてどこかはかねげな不思議な男
それでいて霊力はズバ抜けた九段階級
わたしたちは今後の詳しい話をしに
喫茶店に入ることにした。
来宮は納得がいかない様子で
わたしと京助の後ろを少し離れてトボトボ歩いていた。
僅かに来宮からの殺気を感じた。
朱華先生は勝手である
朱華先生の弟子は自分だけである
嫉妬深く男嫌いな来宮はそんなことを考えているのだろう
大体は想像がつく。
霊視で降りてきた映像は仲間は来宮以外、全員男だった。
それを知った時の来宮は興醒めしていた。
小さな喫茶店を見つけ、
3人で席につき珈琲を注文した。
何から話すべきなのか。
頭の中で考えをまとめている間に京助が口を開いた。
京助「朱華様、あなたが言いたいことはある程度は理解しています。
守護霊の恵美子様から詳細は伺いました。
どうやら僕にも成し遂げなければならない使命があるようで、、、
それは朱華様と一緒でないと、叶えることができないように感じるのです。
ですから、僕は朱華様が探していた仲間の一人で間違いないかと思います。」
私は驚き、思わず隣に座っていた来宮と顔を見合わせた。
彼の方から自分たちが探していた仲間だと言ってくるなんて。
来宮「これは彼の洗脳です。」
来宮は徹底的に男が話すことを否定する気である。
店員「お待たせいたしました」
色白の華奢な女性店員が
注文した珈琲を丁寧にテーブルに置いた。
京助「ありがとう」
優しい笑顔で京助が言った。
朱華「えっと、、まず、質問していいかな。」
わたしは自分の話をする前に、
まずは京助に聞きたいことが強く出てきてしまった。
京助「はい、どんなことでも」
朱華「京助は、私の祖母と会話できるの?」
京助「ええ。」
少し気まずそうな表情で京助は頷いた。
朱華「そっか。祖母は成仏して私のそばにいてくれているんだね。
それが知れたら私は満足だよ」
亡くなった霊魂は成仏することが最善である。
成仏にかかる時間には個人差があるが、
祖母が守護霊になれたということは成仏がうまくいった証である。
祖母は成仏していると感じてはいたが、
自分以外の人間からそのように知ることができるのは
やはりほっとするものだ。
祖母が京助にどんな風に話しかけているのか気になった。
京助に少しだけ嫉妬さえしてしまった。
だって、
自分は大好きな祖母とお別れしてから霊感があるのにも関わらず
何もメッセージが降りてこなければ、
夢に出てくることもないのだから。
それが普通なんだけど。
“羨ましい“
声に出たか?出ていないか、
どちらにしても顔には出ていたようだ。
京助「恵美子様が僕に話しかけるのは、朱華様の使命の為でしょう。
全て朱華様のために、僕という人間を仕えさせようとしたんです。
そもそも僕の存在自体がそういった目的のために存在しているようなので。」
京助はまるで、自分の存在が私の使命を叶えるためだけに
存在しているような口ぶりで話した。
朱華「祖母が京助に伝えなければならないことがあるんだね。
色々教えてくれてありがとう。」
京助「いえ。今後も何かあれば必ずお伝えします」
京助には感謝をしなくてはならないと思った。
わたしには関係ないことだが、
果たして京助は自分の人生を
幸せに生きられているのだろうか。
人は皆
神に使命を許可してもらい、
肉体をもらって今世を迎えているが
途中で使命をやめたり変えたりすることだってできる。
使命が何かわからず死んでいく者だっている
使命かどうかは自分で決めることだってできる
本来、生きることは幸せを感じるためにある。
しかし京助は輪廻転生をすることもなく、
今日までずっと使命が始まる日を“待つ“選択をした?
朱華「わたしとしては助かるけど、京助はそれでいいの?」
京助は不思議そうに首を少し傾げ
沈黙の後にこう言った。
京助「今こうなっているということは、これで良いということです。
特別嫌だという感情はありません」
来宮「綺麗事のように聞こえます」
朱華「そう。わかった」
仮に京助の本心ではなくても、そう言うのであればそれで良い。
深く考える必要もないと思った。
どうこう言う権利もない。
来宮は表情ひとつ変えずに、
じっとわたし達の話を聞いていた。
早速、本題に入ろうと思う。
京助が本当にノートに書かれている内容を理解した上で、
一緒に使命をやってくれる仲間になってくれるのかどうかは
念の為、確認を取らなければならない。
祖母から大体のことは聞いているようで、
私が来るのを待っていたと言っているが。再確認が必要だと思った。
朱華「私の使命について書かれたノートの内容は
もう知っているんだよね?」
京助「はい」
朱華「内容の通り、ミッションを達成するのはとても大変なことだと思う。
わたしは命懸けでも使命を成し遂げたいと思ってる」
真剣な目で京助を見つめながら言った。
朱華「京助、一緒にやらない?」
表情ひとつ変えなかった来宮は驚いた様子で私の顔を見た。
きっと、改めて仲間になってくださいとお願いするとか、
やりたいか、やりたくないかの意思を聞くような聞き方をすると思ったのだろう。
そのほうが自然である。
“一緒にやらない?“はナンパっぽい。
京助は静かに微笑んでいた。
来宮「死ぬかもしれませんよ」
京助「ええ。仲間になる意志に変わりはありません。
やりましょう。使命の為に。」
朱華「ですね」
こうして、旅の仲間は三人となった。
正確には四人だろうか。
守護霊として後ろに憑いてくれている祖母がいる。
京助はなぜかとても嬉しそうで、
終始優しく微笑んで見えた。
来宮は黙っていて反対はしなかったが、まだ信じきれない様子だった。
この初対面の男をいきなり仲間として受け入れようとすることは
男が苦手な来宮にとってはとてもハードルが高いことだと思う。
来宮に同意を得ぬまま仲間に決めてしまった。
今更ではあるが来宮に聞いてみた。
朱華「来宮、京助を仲間にしてもいいね?」
来宮「はい。朱華様がこの男に早速洗脳された様子ですので
しかし私はそんな朱華様の弟子ですから、反対する権利はありません。」
朱華「怒ってる?」
嫌味を込めた来宮の言葉に、
わたしも京助も動じはしなかった。
来宮「ただし、新参者の京助殿に条件を出してもよろしいでしょうか」
「条件?」
わたしと京助は口を揃えて言った。
来宮「はい、条件です。では京助殿、ちょっとこちらへ」
そう言い放った後、
京助を私から遠ざけるようにして奥の席に京助を誘導した。
来宮「朱華先生はこちらでコーヒータイムの続きをどうぞ。
京助殿はわたくしとお話を」
来宮に言われるがまま私たちは別々の席に座った。
何を話しているのかとても気になったが
言われた通り少し冷めたコーヒーを飲み、
別の席から二人を見つめていた。
来宮「今から私が話すことは
今後共に旅をする際に必ず守っていただきたいのです。
さもなくば、あなたの命は無いに等しい」
来宮は強い口調で京助に言った。
普段は穏やかな性格で
決して自分が前に出るようなことはしない娘であるが
頑固で気が強いところもあり、
自分だけが朱華の弟子であることに対して
マウントをとりたがるところがある。
京助「はい、わかりました。どんなことでも」
やけに素直な京助に拍子抜けしそうになる来宮だったが、
どうしても伝えたい様子で話を続けた。
来宮「まず、わたしは男が嫌いです。つまりあなたが嫌いということです。
ですが、わたしは朱華先生の為に京都まで来ています。
あなたを受け入れる必要があると朱華先生が判断されたようなので、
ついさっき一億歩譲って仲間にすると腹を括ったところです」
来宮は怒った様子で早口で言った。
京助「なぜ男が嫌いなのですか?」
来宮「わたしは女で、あなたが男だからです。」
京助「そうですか。」
来宮は軽蔑するような目で京助を見ながら話を続けた。
来宮「条件について簡潔にお伝えします。
この先もし危険に晒されるようなことがあったら
あなたが朱華先生の代わりに死んでください。」
京助「はい」
来宮「それから、朱華先生に恋愛感情を持たないでください。
以上、この2つを旅の仲間にする条件としますので!」
京助「はい」
理解に苦しむ条件を出した来宮だったが、
京助は動じなかった。
そして笑みを浮かべながら京助は言った。
京助「当然のお役目を果たせばよろしいのですね。
では、来宮さんにはどう接したらよろしいのでしょう」
来宮は動揺し、
少し顔を赤らめ慌てて答えた。
来宮「どうもこうも、普通でいいでしょう」
京助「普通、ですか。」
京助は揶揄うように笑って、
ゆっくりと席を立った。
京助「話は済みましたね、条件はわかりました。
これからどうぞよろしくお願いします、来宮さん」
京助はそっと席から立ち上がり、
来宮のそばに寄り耳元で囁いた。
京助「僕、女ですよ」
そう囁いて京助は朱華が座っている席に
ニヤニヤしながら戻っていった。
来宮「あの野郎!!いつか潰す」
暴言を吐きそうになった来宮は
なんとか怒りを抑ようと、ぬるくなったコーヒーを一気飲みした。