京都編③【初めての仲間】
居酒屋の男にメッセージを渡したが、
本当に来てくれるのか。
怪しいと感じて行かないのが普通だろうと思う。
しかし、仲間になる人物なのであれば、
ナプキンに入れ込んだ私の念力に気付き
何かが起きようとしていると気付くはずであろう。
必ず来るという確信があった。
霧がかった竹林、
朝陽が優しく差し込む景色の中からゆっくりと現れる
長髪の男の姿。
イメージがしっかりと目の裏に降りてくる
どうせなら京都らしい美しい場所で
思い出に残るような出逢いにしたい。
悪霊と戦って共に命を落とすかもしれない相手なのだから。
人間はイメージが大切である、
イメージが降りてこないことは、
どうやっても現実でその通りにはうまくはいかないものだと思う。
信じられない様子で来宮は私を見つめていた。
宿に戻り、布団に入る頃にはもう何も聞いてこなくなった。
明日が楽しみになってきた。
私たちは静かに眠り京都の一日目を終えた。
翌日の早朝5時。
私たちは竹林へと向かって歩いていた。
不安そうに否定的な表情で来宮は聞いてきた。
来宮「本当に来てくれるのでしょうか。」
朱華「来る」
しばらく歩くと竹林が見えてきた。
びっしりと背比べをするように並んだ竹林の中の遊歩道を歩いていく。
早朝は肌寒く、うっすらと霧がかかっていた。
イメージで降りてきた通りの光景だった。
さらに進んでいくと、昨夜見たあの美しい男が立っていた。
来宮はとても驚いていたが、
それよりも彼の美しさと放つオーラに圧倒されていた。
来宮「朱華先生、、、」
朱華「いた」
男は私たちに気付き、
振り返り、、、
ゆっくりと近づいて話しかけてきた。
昨晩渡したナプキンを広げながら彼は言った。
男「僕をお呼びでしたよね」
朱華「はい。わたしの名前は朱華と言います。
あなたを探しに京都に来た者です」
男はあまり驚いた様子もなく、じっと私を見つめて言った。
男「僕の名は嵐山京助と申します。」
わたしと来宮は顔を見合わせた。
来宮「嘘だな。」
思わずツッコミたくなるような名前をしていた。
京助という男は、表情ひとつ変えずに続けた。
京助「あなたを待っていました。ずっと」
来宮「朱華先生、、、ちょっと、、、」
来宮は男を不信に思ったようでそっとわたしに耳打ちした。
来宮「この男は頭がイカれてます」
朱華「知ってる」
来宮「いや、おかしいですって」
彼はわたしたちの様子をみてクスッと笑い、
何も言わずに待っていた。
自分の頭の中で想像したことは大抵は覆される。
この男は私を待っていたと言っている。
朱華「待っていたと言うのは、どういうことでしょうか」
彼はこちらが指定した時間より早めに到着していたが
そういうことではなさそうだった。
京助「あなたの前世はエンジェルヒーラーですね。
僕も同様に、元はエンジェルヒーラーでした。
天神に使命と肉体を与えていただいてから
あなたがこの地上に降りてくるのをずっと待っていました。
あなたが僕を見つけ、共に使命をやる時がくる今日まで、
ずっとずっと魂に経験を刻み続けていました。」
どうやらこの男も天神に命じられ、
肉体を持ち人間として生まれたようだが、、、
“一人でできる使命ではない使命“を与えられたようである。
来宮「は?」
来宮は思わず声を出した。
そして少し苛立った様子だった。
わたしは開いた口が塞がらなかった。
男は話を続けた。
京助「僕がすべき使命は、
どうもあなたとしか叶えることができないようなのです。
あなたが僕を見つけにきてくれるまでは、
人間としての経験を積んで待つ約束をしてきた魂らしいのです」
来宮「らしい、って。どういうことなのですか?」
苛立った口調で来宮は京助に聞いた。
京助「、、、、死ねないんです。」
京助の表情は悲しげだった。
京助「信じがたいことだと思いますが、
昨晩、あなたが僕にナプキンを渡した後
守護霊様である恵美子様が教えてくれたのです。」
朱華「恵美子、、、わたしの祖母が?」
これは驚いた、、
京助「はい」
恵美子とは亡くなった祖母の名前である。
守護霊になった祖母は私とは会話をしない。
この京助という男には何か話したというのだろうか。
朱華「京助さん、わたしの祖母がわかるんだね?」
京助「はい」
朱華「、、、わたしが来ることを知っていた?
どれくらい待っていたの?」
京助「260年ほどです。」
来宮「は?ありえない、ふざけてる。」
来宮は言った。
疑うというより完全に怒っている様子である。
冗談にしては、なんの面白さのかけらもないし、
この男がこの状況で嘘をつくとも思えない。
それにしても260を超える年月を?
いつ来るかもわからない今日まで待ち続けるとは、、、、
わたしでも理解に苦しんだ。
驚く私達を気遣うような口調で京助は言った。
京助「信じてもらえなくて当然です。
でも、、僕を見つけ出してくれて感謝しています
そして勇気を持って話しかけてくれた、ありがとう」
男は少し涙ぐんでいるようにも見えた。
どちらかというとお礼を言うのはこちら側である。
この男は純粋無垢な魂。
そして話をして確信した。探していた仲間に違いないと。
朱華「詳しい話はこれからゆっくり聞かせてもらえるかな、
私もあなたに話したいことがたくさんあるし」
京助「わかりました」
京助は優しい笑顔を見せた。
彼を霊視して降りてきた言葉はこうだった。
「やっと、死ねる」
そして察した。
この男は数百年もの間、
死を迎えたくても
迎えることを許されない使命を与えられたのだろう。
いつ終わりが来るわからないまま、
どういった気持ちで今日まで生きていたのだろうか。
どんな経験を魂に刻み込んできたのだろうか。
そう考えると胸が締め付けられる思いになった。
そして興味も湧いた。
“ありがとう、京助“と心の中で思った。
私の使命をやり遂げるための最初の仲間は
齢260歳の男だった。