第四章 ゲッシュ
央…央、大丈夫? 央…
「姉さん…」
心配そうに呼びかける雪の声で目を覚ます
真理に正体を打ち明けられショックで失神した央は手を握り優しい微笑みを浮かべた雪
をぼんやり見ていた
「今宵はアコレードだというのに…意外とやわなのね」
真理の声で一気に目が覚める
そうだった…確か、彼女 ヴァンパイアで魔女だとか言ってたよな…マジかよ
「マジよ」
薄ら笑いを浮かべた真理は手を差し伸べる
「いらっしゃい…みんなに紹介しなくてはね」
魔女でもヴァンパイアでもいい…姉さんを生き返らせチンピラホストに騙された記憶を
消してくれたこの人は
俺にとっちゃ天使だぜ
「ありがと」
真理はにっこり微笑みかけた
塁の運転でクラブ「 Camelot 」に着くと扉が開かれ麗しい騎士たちが華やかなコスチ
ュームに身を包み跪いて出迎える
「私の見つけたトリスタンよ。今日からよろしくね」
真理に言われると騎士たちは1人ずつ前に出て央に微笑みながらボウ・アンド・スクレ
ープで自己紹介する
「ぼくはランスロット わからないことは全て聞いてくれ トリスタン」
腰までの見事な黒髪をゆるめに束ねたランスロットはスラリとした長身で白薔薇が男性
になったような
優雅な見目麗しさと凛々しさを兼ね備えていた
「うちの代表よ 困ったら相談なさい 真剣に聞いてくれるわ」
「よろしくお願いします」
上品な面差しで優しそうに微笑まれた央は
本物の貴族や騎士ってこういう人をいうんだろうな
少女漫画に出て来そうな…違う次元から来たみてぇだ
「感心していないで盗めるモノは盗みなさい」
真理に言われギョッとする
「かまわないよ…どんどん盗んで成長してくれるならぼくの屍を越えてゆけばいい 出
来るのならね」
「はい その時は遠慮はしません」
「なかなか骨のある子だね 流石は真理の発掘した石だね」
石かよ、俺はパワーストーンじゃないっつーの!
「これは失敬…例えが悪かったかな…磨けば光りそうだってことだよ」
え…心を読まれた 真理の時と同じだ
「そうそう 言い忘れたけれど ここにいる全員ヴァンパイアよ」
マジかよ…もう失神はしないぞ
「そう身構えなさんな、ガラハッドだ。よろしくな」
包容力のある温かい声に優しい瞳 またまたすげえイケメン
「光栄だな」にっこり
まただ…
「私はアーサー ランスロットに妻を寝取られた間抜けな王だ」
端正な顔だが相手を威圧するような品格と威厳がある
「アーサー殿 トリスタンが戸惑っているではないか 新入りをからかうものではないよ」
「ああ、悪かったな坊主」
坊主かよ…確かにかなり年上そうだけど
「こう見えてほんの800歳だ やはり老けてるかな」
800歳?? そ、そうか 人間じゃなかったっけ
「彼は大魔王よ 身分が高いの」
大…魔王……って…
「ぼくはケイ」
「ガウェインだ」
「パーシバルだ よろしくな坊や」
次々と円卓の騎士たちに紹介され全員が終わる頃には何にも動じなくなっていた
「よろしい では始めましょうか」
「跪きなさい…」
剣を持った真理に命令されると言われたとおりに跪く
何なんだ…今度は何が始まるんだ
真理は剣の刃の側面を央の右肩に当て、剣を頭上ギリギリまで持ち上げ、刃の同じ側が体に触れるように反時計回りに反転させると左肩に当てる
「其方を正式にトリスタンとして我がCamelotの騎士と認める」
ようするに儀式…なのか
「よって其方にゲッシュを課す」
ゲッシュって何だよ?
「騎士が課せられる禁忌よ 要するに誓い…破ると呪われるわ」
の、呪われるって…い、いゃ、落ち着け、落ち着くんだ 俺
「安心なさい 破らなければ問題ないわ」
「其方に課すゲッシュは…我が城、Camelotで働きいいと言うまで私を手伝うこと それと 」
手伝うのか…それなら楽勝だぜ
「三ヶ月以内にナンバー2になりなさい」
えっっ!!!!
「我が城のルールはお客様と枕をしない 風俗に堕とすような誘導はしない 売掛はし
ない すべてのお客様を姫として接すること ボトルやシャンパンタワーをねだらない」
「ちょ、ちょっと待ってください、そんな短期間でどうやってナンバー入りすれば…」
「違うわ…ナンバー入りじゃなくナンバー2になりなさい、よ」
「無理強いはしないわ 出来なければあなたのお姉さんをもとに戻すだけよ」
にっこりしながら鬼畜なゲッシュを課した真理を央は放心して見つめていた
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